『オカシナ記念病院』はコメディタッチの医療小説。コメディタッチ…と言ってもテーマは至って真面目。
前回読んだ介護小説『老父よ、帰れ』よりも面白かった。
コメディタッチではあるもののも久坂部羊の主張が色濃く出ていて「ああ。この人の考え方の基本はここにあるんだな」と感じさせられた。
オカシナ記念病院
- 都会の大学病院で初期研修を終えた新実一良が離島にある岡品記念病院に赴任したところから物語がはじまる。
- 新島は意識高い系の真面目な医師。離島で多くの経験を詰みたいと意気揚々としていた。
- しかし新島は「できるだけ何もしない」と言う岡品記念病院の方針に戸惑う。
- 延命治療、がん検診、禁煙に認知症予防。医療は医者の自己満足なのか?
感想
『オカシナ記念病院』はコメディタッチにせず、ガチガチに書いた方が面白いんじゃないかと思うのだけど、ガチガチに書いてしまうにはテーマが重過ぎるのかも知れない。
何しろ「検査しまくって、薬のみまくって、医療を受けまくって長生きするより、ほどほどのところで死んだ方がいいんじゃないの?」ってところがテーマになっている。
それどころか作中で「縮命治療」なんて言葉さえ出てくるのだ。
私は完全に久坂部羊の考え寄りの人間だけど、生死に関する問題は人によって考え方が違うので正解を導くことは難しい。
例えば……
- 胃ろうをしてまで生きていたい?
- 前進をチューブで繋がれても延命したい?
……と聞かれたとしても、その人が置かれた年齢や状況によっても答えが変わってくると思うし、その時になってみないと分からない部分もある。
『オカシナ記念病院』で描かれていた「過度な医療を行わない世界」は理想的だと思うものの、実現するのは難しいし、すべての人に受け入れられるとは言い難い。
だけど私は『オカシナ記念病院』に登場した「老衰」「自然死」を目指して、死ぬまでしんどい思いをせず日常生活を送り、そこそこの年齢で死んでいった老人達は理想的で羨ましいな…と思ってしまった。
ひとたび病院に入ってしまうと、死にたいと思ってもなかなか死なせてくれないのだ。私の父は8ヶ月間入院して亡くなったけれど、あんな苦しい状態で生きるのなら、さっさと死にたいと思っていたんじゃないかな…と思っている。
『オカシナ記念病院』はコメディタッチの作品だけど、楽しく読んでワハハと笑うようなタイプの作品ではなく、どちらかと言うと読んだ後で考えさせられるタイプ。
「死」は誰もがいつかは直接しなければならない問題なので、『オカシナ記念病院』は中年と呼ばれる世代以降の人達なら読んでおいて損はないんじゃないかな…と思う。