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雪の花 吉村昭 新潮文庫

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『雪の花』は江戸時代に私財を投げ打って種痘を持ち込んだ医師の生涯を描いた作品である。

異国の文化を取り入れることさえ容易でなかった鎖国の時代に西洋医学の治療法である「種痘」を取り入れて天然痘を治療するのは、どれほど困難だったかは簡単に想像することができる。

さぞ、ドラマチックな筋書きかと思って手に取ったのだがそれはそれは、驚くほど地味な仕上がりになっていた。

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雪の花

ザックリとこんな内容
  • 天然痘の予防法が異国から伝わったと知った福井藩の町医・笠原良策は、私財をなげうち生命を賭して種痘の苗を福井に持ち込む。
  • しかし天然痘の膿を身体に植え込む事に抵抗のある人達に、なかなか種痘は広がらない。

感想

主人公が西洋医学に目覚め、種痘という方法を知り、それを広めていく過程が恐ろしく淡々と描かれていて物語の筋書きは、それなりに起伏があるのにもかかわらず読んでいて、じりじりと文字が連なっているという印象を受けた。

だが、面白くなかったかと言うと、そういう訳でもなく最後まで読んでみると「日本人らしい」作品に仕上がっているように思った。

血の滴るようなステーキを食べるのと、淡白な白身魚の煮付けを食べる違い……と言うかアピール度は低くても、それはそれで良いかも知れないと思えるような誠実に書かれた文章で、誠実に写された人間像にとても好感が持てた。

その地味さが「1つのことを成し得る人間」を浮き彫りにしているようにも思え、とりたてて、激しい感動はないものの、良い作品を読んだ実感はあった。

この作品に限ったことではないのだが「地味な造り」というのは吉村昭のカラーのような気がする。

つまらないと言えば、つまらないのだが、なんとなくいい味がするというか。色にたとえるなら「渋い茶色」とか「いぶし銀の色」ってところだろう。

さらりと読めて、長くなく、クドくもなく、美味しい日本茶のような作品だと思った。

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