「ひたむきに働く女性を描かせたら津村節子の右に出る作家さんはいないかも」と思ってしまうほど、作者の「あったかい眼差し」が心に染みる作品である。
ちなみに津村節子は私の「好きな女性作家ベスト10」に入る作家さん。
『千輪の華』は津村節子の作品の中でも1、2を争うほど好きだ。
千輪の華
安易な同棲の果ての心中未遂…。男の裏切りによって痛切な恋の破局を経験した真野祥子は25歳のOL。
放心の日々のなかで、ふとしたことから女花火師・立花薫を知った。
一筋縄では行かない職人たちを率いる男まさりの薫の生き方に惹かれた祥子は、下働きとして住み込み、汗と土にまみれながら新たな人生をひたむきに歩きはじめる。
夜空を彩る一瞬の華麗なきらめきを夢見て―。
アマゾンより引用
感想
心中未遂の果てに恋人と別れた女性が花火師の世界へ飛び込んでゆく物語。
「花火」に魅せられ、花火の世界に、のめりこんでいく中で主人公が少しづつ立ち直っていく姿が感動的で脇を固める登場人物も、魅力的な人物が多く、飽きない作りになっている。
「花火会社」を取り仕切る社長が、日本で初の女性花火師なのだ。
しかも素晴らしい仕事人でありながら、妻であり、母だったりするとなると、その設定だけでも女性読者にとっては、魅力的な作品だと言って良いと思う。
だが、この作品の本当の良さはNHK朝の連続TV小説のように「なんだかんだ言ってもすべて上手くいくのね」……という筋書きではないところにある。
「女性花火師」という、いかにも…な職業を話の主軸にもってきている上に物語自体はサクセス・ストーリー仕立てではなく主人公や、その周りにいる人々の内面を描くことに重点がおかれていて彼らが夢中になっている「仕事」はあくまで脇役なのである。
仕事をすることで、主人公は精神的に大きく成長していくのだが、だからといって、それで全てが満たされる訳ではないというあたりは「すぐ、そこにある現実」といったリアリティに溢れている。
その世界がリアルがゆえに、主人公の痛みや、哀しみが伝わってくるのだ。
小説が終わった時点において、主人公が目に見えて掴んだ物は少ない。
「花火師」として1人立ちをするところまでは描かれていないし恋愛面で満たされた訳でもない。ある意味において「幸せ」なラストではないかも知れない。
それなのに読後感は、なかなか爽やかだったりするのだ。おそらく「彼女なら、きっと、やれる」という確信が持てるからだと思う。
この作品は「頑張る女性への応援歌」のような気がする。
『千輪の華』が描いたものは「信じていれば夢はきっと叶う」というような砂糖菓子のように甘い希望ではない。
「自分が進みたい道だから、とりあえず行ってみる」というような意志的に前へ進んでいくという姿勢が、心強く思われた作品だった。
ちなみに、この作品は大好評絶版中。
気になる方は古書店で探してくだい。Kindle版は販売されているので、上の画像にリンク入れておきます。
津村節子の作品は、なかなか手堅い秀作が多いと思うのだけど絶版の作品が多い。
やはり地味な展開が「いまどき」の人の心を掴めないのだろうか?
津村節子ファンとしては、残念でたまらない。