お久しぶりの佐川光晴。一時は何かに取り憑かれていたかのように読んでいた時期もあったのに、ある時期から熱が醒めてしまって手に取るのを避けたいた。
佐川光晴…作風…変わってるんですけど、何があったの?
こんな気持の良い作品が書ける作家さんだと思っていなかったので驚いてしまった。
『駒音高く』は将棋に関わる人達を主人公にした短編集。文句なしに面白かった。
駒音高く
- 将棋がテーマの短編集。7作収録。
- 『大阪のわたし』『初めてのライバル』『それでも、将棋が好きだ』『娘のしあわせ』『光速の寄せ』『敗着さん』『最後の一手』
- 掃除婦からプロ棋士を目指す若者など、将棋の世界で生きる人達の悲喜を鮮やかに描く。
感想
佐川光晴と言うと、家族や教育をテーマにした作品を描く作家さんだ。
ちょくちょく芥川賞候補にあがるのに、なかなか受賞出来ず現在に至る。
作品数はかなりの数で、ざっくりと分けると「陰気でひねくれた純文学路線」と「明るく読みやすいけど思想入りまくり路線」の2つがある。
私は佐川光晴の「陰気でひねくれた純文学路線」が好きで一時は推していたのだけれど、ここ最近は「明るく読みやすいけど思想入りまくり路線」が多くなっていて、なんとなく遠ざかってしまっていた。
「明るく読みやすいけど思想入りまくり路線」は悪くないけど胸焼けするような押し付けがましさがあって、あまり好きじゃなかったのだ。
ところが、この『駒音高く』は2つの路線が見事に融合していた。
読みやすい作品なのだけど、押し付けがましくないのがとても良い。そして、佐川光晴の本来の持ち味もちゃんと生かされている。
私は将棋そのものに興味はないけれど大崎善生の『聖の青春』とか『将棋の子』をはじめ、将棋をテーマにした作品は大好きだ。
『駒音高く』は将棋をテーマにした作品の中でもクオリティの高い部類に入ると思う。
収録されている7作品の多くはプロを目指す若者が主人公。
将来有望な子もいれば、プロの道を諦める子もいた。読んでいて辛くなるような場面がありながらも、作者である佐川光晴の温かい視線が感じられたのがとても良かった。
そして最初の作品に掃除婦。最後の作品は引退間近な棋士の話を持ってきているのも心憎い。
大人達のエピソードも若者の物語に負けないくらい良かった。
「佐川光晴の作品は暑苦しいし、読んでいて鬱陶しいから、もういいかな…」と思っていたけど、こんなタイプの作品なら是非読んでみたい!
ちょっと佐川光晴から遠ざかっていたけれど、最近の作品もまた読んでみたいと思った。