佐川光晴の書く作品を好きって訳ではないのだけれど、私は密かに芥川賞を取って欲しいと思っていた。
最近にしては珍しく陰鬱で「THE文学」とでも言うような作品を書く作家さんで、後味が悪い物も多いけれど、それでも作者書く作品の質は高いと思っている。
だけど今回は駄目だった。彼の担当の編集者さんは、どうしてこれで良いと思ってしまったのだろう?
私が彼の担当者だったら絶対に猛反対していたと思う。文章の上手い下手とか、話の面白さ云々以前に。方向性が間違っている気がしてならない。
とうさんは、大丈夫
児童相談所に勤め、温かい家庭を持つ主人公、澤村。父として家族の柱となり、児童福祉司として他の家庭を救うなか、突如事件は訪れた――。
妻の声も子どもの声も、もう心には届かない。正しく生きてきたやさしい男の人生は、ひとつのできごとに殺された。果たして最後に彼を救うのは、叫びか、ささやきか、誰の声なのか。
アマゾンより引用
感想
作品の主人公は児童相談所の職員。昨今、話題の児童虐待の話を絡めているにも関わらず、何故か話の本質は違う方向へと向かっていく。
結局のところ、鬱病をわずらった主人公の苦闘と救いを描いた話だった。何故、児童虐待云々の前振りが必要だったのか、激しく謎だ。
そして何よりも悪かったのは物語の前半部で、ラストのオチが読めてしまうこと。これは致命傷としか言いようがない。
ちっょと勘の良い人なら、主人公が体験した最初の事件で「これって……」と分かってしまうと思う。
社会的な問題を書きたかったのか、あるいは主人公の心の遍歴を書きたかったのか、それともミステリーめいたドキドキを書きたかったのか、テーマがバラバラで定まっていないように思う。
結局のところ、どれもこれもが中途半端な形でしか描かれていない。
非常に残念な作品だと思う。
佐川光晴は良い作品を書く実力のある人だと思うだけに「どうして道を間違っちゃったのだろう?」と思ってしまった。次の作品に期待したい。