佐川光晴の作品を読むのは、これで3冊目。1冊目は満足して、2冊目はがっかりした。そして今回3冊目では感動した。良かった……じつに良かった。
ハチャメチャな話だったが、一気に読み上げてしまう面白さだった。
図書館で借りた本なのだが、これは自分のために買っておかなければならないような気がする。きっと、後々再読したくなるだろうと思うのだけど下手をすると、手に入らなくなっているような気がするので。
極東アングラ正伝
山谷から中南米を股にかけ、いつでもどこでも闘いつづける男は、元・テント劇団員。純文学界の気鋭が、混迷の時代に、ある人間の濃密な生きざまを描く。『小説推理』連載に加筆、訂正したもの。
アマゾンより引用
感想
主人公は両親を突然の事故で1度でなくして、おまけに失業しちゃった28歳の元・塾の講師の男。
副主人公……というか陰の主人公は、日雇い労働者であり、役者(唐十郎のテント劇場みたいなアングラ芝居)でもある35歳の男。
2人は摩周湖のほとりで出会って、一緒に東京に帰り、1つ屋根の下で暮らしはじめる。
主人公が、副主人公の人生に巻き込まれていくというか、のめり込んでいく過程が面々と書かれているのだが、副主人公が実に魅力的な人物で、好き嫌いはともかく私も引き込まれてしまった。
副主人公の馬鹿っぷりが、たまらなかった。
同棲していた子連れの女に心底惚れていたのに、女が元夫と復縁するために「俺も、この男に惚れたから丁度いいや」なんて芝居をする男の純情も、やや性格が破綻しているところも、時代遅れなところも、不器用になっていて、とても魅力的だった。
ラスト近くで明かされる副主人公の「じつは彼は……」という秘密も良かった。じつに良かった。とにかく強烈なキャラクターだった。こんなキャラクターには、なかなか出くわせない。
副主人公が南米を放浪した時に書いたという手記はイマイチだったし、ラストも「そんなに簡単にまとめちゃって良いの?」と思ったし、ご都合主義的にお茶を濁している部分もあった。
しかし、そんな事が欠点とは思えないほど、勢いのある力のある作品だったと思う。
今はまだ1度読んで興奮している状態なので、まともな感想が書けないのだが、もう1度じっくり読み返してみたい。
2003年度のマイベスト3入りは確実だと思う。私にとっては、それくらい良いと思う作品だった。