私は、久世光彦の書く文章のリズムが好きみたいだ。
とりたてて面白いと思えるほどの作品ではなかっのたのに、ゆるゆると、ヌルイ水の中をたゆうとうているような……
ただ文字と文章を追いかけているだけなのに「ツマラナイ」と思うことなく、ページを繰れる作家さんは、あまりいない。
たんに相性がいいんだと思う。
燃える頬
あの夏、ぼくは十五歳だった。父さんと二人、戦争の音が遠く響く森で暮らしていた。
そして、僕はあの人に出逢った。炯る目で遠くをみつめる、あの人に―性と死を知り、大人になる季節を流麗に描く傑作長篇。
アマゾンより引用
感想
15歳の少年が主人公の『肉体の悪魔』なんだとか。私は『肉体の悪魔』を知らないので『ヰタ・セクスアリス』の久世版かと思ってしまったけれど。
森の中での生活……というのも良いし、作者の大好きな「狂女」も登場するし、私の大好きなジメジメとした世界が広がっていて、面白かった。
ただ、ちょっと物足りなかったのも事実である。
濃厚さが感じられなかったと言うのかなぁ……あまりエロスを感じなかったのだ。
描写だけでいうならば私のお気に入りである『早く昔になればいい』や『陛下』よりも、直接的なセックスシーンは多かったように思うのに、それがかえって印象を薄くしてしまったのかも知れない。
主人公級の登場人物ではなかったのだが、ターナーというニックネームの美術教師が、みょうに印象的だった。
話の筋に大きく絡んでくるわけでもなかったのに。その死に方が強烈だったからかもしれない。
スカートをはいて1人ぼっちで死んでいく男……という設定はいかにも「久世節」って感じがした。
森を描いターナーの絵を表紙。森で暮らす少年。スカートをはいて死んでいった美術教師ターナー。
それらの印象が複合されて「けっこう良かった」という感想に行き着いてしまったあたりは、どうも騙されているような気がしなくもないが、そこが「本を作るテクニック」なのだと思う。
なんとなく湿った森の空気を感じさせる1冊だった。