久しぶりの山口恵以子。『食堂のおばちゃん』シリーズが大好きなので、これも間違いないだろうと期待して手に取った。
結論から先に書きます。私の好みには全く合いませんでした。控えめに言って選択ミスでした。
題名に「食堂」と言う言葉がついていたのが悪かったのだと思う。実のところこの作品に登場するのは食堂とは名ばりのイタリアン料理店。女性シェフが1人で切り盛りする人気店と言う設定。『かもめ食堂』とか『食堂かたつむり』が好きな人なら楽しめる思う。要するにスイーツ臭半端ないって事。この路線を否定するつもりは無いけれど、山口恵以子にそれは求めていなかった。
この作品のイマイチさ加減はスイーツ臭もそうだけど、小説界隈に食べ物ネタが反乱しているのも原因だと思う。私は食べるのも作るのも好きで食べ物小説も好きだけど、流石にちょっと飽きてきた。こんなに沢山食べ物小説が出てくると、そこから一歩抜きに出ていく事は難しい。食べ物小説が悪いと言うのではなくて、よほど上手く描かないと簡単には心を奪われなくなってきたと言うか。「わぁ~美味しそう~」で1冊読ませるのは簡単な事ではないのだ。
ヒロインがイタリア料理のシェフになろうとイタリアに渡り武者修行をするくだりは朝の連続テレビ小説のようで面白かった。「料理人の成長と挫折」がメインだったら、それなりに面白かったと思うのだけど、必要以上に「美味しそう」を描写してしまったためにスイーツ臭の方が勝ってしまったのが敗因だと思う。
『食堂のおばちゃん』シリーズの時は作者自身が食堂で働いていた経験がある分、細かいところがリアルで良かっのだけど、この作品は一事が万事夢見がちで「スイーツ小説」としか思えなかった。
文句ばかり書いてしまったけれど、普通に面白いレベルではある。ミニシアター系の映画にしても良さそうだし、ドラマ化しても楽しいと思う。悪くもないけど良くもない。可もなく不可もなくと言う印象。とりあえず山口恵以子の食べ物小説はもういいかな…と思った。