『愛情はふる星のごとく』は作者の尾崎秀実が獄中から家族に当てて書いた手紙をまとめた書簡集。
尾崎秀実は理論家で、ジャーナリストとして活躍するも、ゾルゲ事件で治安維持法によりスパイ容疑で検挙され、二年後に処刑されている。
愛情はふる星のごとく
大きく眼を開いてこの時代を見よ…ゾルゲ事件に連座し,獄中にあった尾崎秀実は,妻と娘に宛てて手紙を書き続けた.死刑囚家族への思いやり,透徹した人生観,切実かつユーモアを湛えた書物とグルメ談義は時代を超えて切々と読者の胸をうつ.120通余を精選,従来の削除部分を原本によって復元した.
アマゾンより引用
感想
発言の自由が許されなかった時代であり、まして政治がらみで投獄されているだけあって、手紙と言っても、けっして赤裸々な気持ちが書かれたものではないと思われる。
それでも、胸にせまるものがあるのは思想家としての作者の姿と、夫であり父でもある1人の人間としての姿が鮮やかに描かれているからだと思う。
恐らく、尾崎秀実は投獄された時から死刑を覚悟していたのだろう。
一通、一通の手紙がすべて遺書めいているのだ。どの手紙にも、娘や妻に「どうしても伝えたいこと」が書かれていて切羽詰った作者の内情が、手に取るように読み取れるのだ。
自分の生を儚むというのではなくて、娘や妻に、これから、どうやって生きていくかを示唆した内容のものがやたらと多い。
本の感想や生きる喜び、そして生きていくためな必要なことが、淡々と綴られている。
獄中にありながらも、居住まいを正したような姿勢があり、ぐうたらと日々を過ごしている私が読むと、身の縮まる思いがする。
本当に強い人間というのは、こういうことが出来るのだなぁ……と思うのだ。「もし自分が、その立場だったら?」と想像してみるにつけ、きっと彼のような手紙は書けないだろうと思われるだけに。
『愛情はふる星のごとく』は尾崎秀実が係わった『ゾルゲ事件』は戦争を知るための資料とか、戦争の愚かさを伝えるものではなくて、むしろ『アンネの日記』に通じるような個人レペルでの伝承だと思う。
こういう生き方をした人がいて、その人が、そんな生き方をしたのは、戦争があったからこそ……と言うような。
たまに読み返してみて、自分の姿勢を正したくなる、そんな1冊。