吉村萬壱の作品はそれほど沢山読んでいないのだけど、実はけっこう好きだったりする。
初めて読んだ『臣女』は衝撃的だった。ただ「凄い」と思ったものの、あまりにも気持ち悪過ぎて再読するには至っていない。それくらいインパクトのある作品だったのだ。
続いて読んだ『ボラード病』も嫌な感じで最高だった。だけど今回はガッカリした。ちっとも嫌な感じがしないのだ。
回遊人
- アニメではありがちなタイムリープ小説。
- 主人公はドヤ街で小さな白い錠剤を見つけた男は、遺書を書き、それを飲む。目覚めるとそこは10年前、結婚前の世界
- 過去へ戻り、妻か、妻の友人か。人生を選ぶのだけど…
感想
「嫌な感じを求めて読むとか変態なの?」と思われるかも知れないけれど、作者にしか描けない世界を期待して手に取ったので「ガッカリした」としか言いようがない。
個人的にはガッカリしたものの作品としてはアリだと思う。
「ガッカリした」と言うのは私が勝手に思い入れをしていたからそう言う感想しか持てなかっただけで、小説としては成り立っている。
タイムリープ物が好きな人は読んでもいいんじゃないかと思う。タイムリープ物の小説と言うと『時をかける少女』が有名どころ。アニメだと大ヒットした『君の名は。』なんかもタイムリープ物だ。要するに時間を越えたり、過去をやり直したり…って話。
主人公の小説家が何度も人生をやり直していく物語で『時をかける少女』をはじめとする日本でヒットしたタイムリープ物と大きく違うのは主人公がオッサンであると言うこと。
そしてあくまでも純文学と言う土壌で勝負している事だと思う。
この試みに関してだけは評価したいのだけど、この作品は作者が得意とする「嫌な感じ」が充分に描けていないのが残念過ぎるのだ。
この作品はあくまでも小説ではあるけれど、主人公は多少なりとも作者を投影していると思われる。そこが敗因だったのではないかと私は思う。
だってこの主人公。意外とクズじゃない。
西村賢太の書くような圧倒的なクズではないし、女性作家達がこぞって描く「小説を書くためなら何だってやってやる」ってタイプのガッツある自己中心的な人間でもない。
どこにでもいそうな、ほどほどに普通のクズ。
私は日常生活で出会えるレベルのクズをわざわざ小説で読みたいとは思わない。
さらに言うならタイムリープ物は既に多くの名作が出ている為、それを凌駕する作品でなければならないのに「まぁ…普通に良いんじゃないかな」ではお話にならない。
作者はどうしてタイムリープ物を選んでしまったのか?
タイムリープと言う設定を生かしていれば良いのだけれど「純文学にタイムリープネタを突っ込んでくるのはイイね」程度の物では読者としては納得出来ない。
次回作に期待したいと思う。