デビュー作である『砂漠の青がとける夜』に続く2作目。
今回の作品も京都が舞台。京都の町家旅館に育ったヒロインの成長する姿を描いた青春小説。1作目よりグンと上手くなっている気がする。
1作目は頑張っているけれど、物語がとっ散らかっている感じだったのだけど、今回は物語としてキチンと出来上がっている。
若葉の宿
京都の小さな町家旅館・山吹屋に生まれた夏目若葉は、父を知らず、母も幼い頃に失踪したため、祖父母に育てられた。
旧来のスタイルを守り続ける山吹屋は、グローバル化の波が押し寄せるなかで、年老いた祖父母の手で細々と経営が続けられていた。
旅館を継ぐ決心がつかないまま20歳を過ぎた若葉は、祖父の伝手により、老舗の大旅館で新米の仲居として修業を始める。
アマゾンより引用
感想
ヒロインは非リア充。主人公が1歳の時にシングルマザーの母親は失踪したため、ヒロインは町家旅館を経営する祖父母によって育てられた。
ヒロインは高校時代にいじめられた事もあり、自分に自身がなく引っ込み思案な性格。
高校卒業後は専門学校に進学したが、祖父母の勧めるまま、祖父母の知る大旅館の仲居として働いている。
題名の『若葉の宿』はヒロインの名前「若葉」にかけてある。
祇園祭からスタートして京都の生活が丁寧に描かれている。気候、風習、そして京都に暮らす人の人柄など。伝統を守っていくことの難しさや、古い街で暮らすことの息苦しさ。
前作の『砂漠の青がとける夜』で感じたスイーツな感じは随分和らいでいて、大人の読み物に仕上がっている。
ただ青春小説にしては爽快感が足りなさ過ぎる。
主人公の性格が引っ込み思案で真面目で地味で陰気なのは良いのだけれど、それも限度物と言うか。読んでいてイライラさせられるところが多かった。
ラストは希望に繋がるハッピーエンドなのだけど、作者の中村理聖には悪いが「この子、絶対これからも苦労するし上手くいかないわ…」と思ってしまった。それくらい甘い。
「現代の若者像をリアルに描いているんです」と言われればそうかも知れないな…とは思う。
ヒロインはやたら失敗する事を恐れ、とにかく「怒られる」事を避けることに終始している。
全編を通して「やる気」とか「努力」とか「生きる力」が感じられず「悪い子じゃないんだけど、あれじゃあねぇ…」と思ってしまった。
「自分のペースで成長してるんです」って解釈だとは思うのだけど、あのペースで成長していたら、社会でいっぱしに生きていけるようになる頃には老人になっていると思う。
中村理聖が前作よりも目に見えて成長している事は評価したい。でも私には合わない路線だな…とも思った。