最近、大崎善生が大好きになっていて「たぶん、私は彼の作品を一生読み続けるのだろうなぁ」と思うほど、しっくりと肌に合うようになっていた。
だけど今回の作品は「しまった、これスカを引いたか」と途中まで読んでガッカリしてしまった。
何しろ私の苦手なタイプの恋愛小説だったのだ。男1人、女2人の三角関係。しかも女は神経症ときている。
もう逃げ出したくなるほど苦手な設定だった。それなのに……だ。不覚にもラストで泣かされてしまった。この作品、かなり良い。
スワンソング
情報誌編集部で同僚だった由香を捨て、僕はアシスタントの由布子と付き合い出す。しかし、尽くせば尽くすほど、恋愛の局面はのっぴきならなくなっていく……。恋人に寄せる献身と狂おしいまでの情熱を描いた恋愛小説
アマゾンより引用
感想
主人公の男性は自分自身が原因で恋人が鬱病(と思われる)になってしまい、それはそれは献身的に恋人の世話をするのだけど、作者自身もそういう経験があるのかなぁ…と思ってしまうほどリアルだった。
心の病を持っている人と、とことん付き合うのって本当に大変。
綺麗事では済まされない部分がある。だけど、そこのところをキッチリと押さえてあったので「メンヘルとか、そういうの流行だから使ってみました」というような安直さが無くて素直に読むことが出来た。
主人公の献身っぷりは、つくづく凄いと思った。
主人公の献身よりも素晴らしかったのは、落ちるところまで落ちてズタボロになった主人公の恋人が立ち直っていくくだり。
泣けたし「応援したい」という気持ちになってしまった。
いくら架空の世界であっても、傷ついた人が安直に立ち直ったりすると「そんな訳ないだろ」と突っ込みを入れたくなるのだけれど、行き付くところまで行っちゃうと応援したくなるから不思議だなぁ…と思う。
ラストは気持ちよく仕上がっているのだけれど、この作品を支配しているのは結局のところ「哀しみ」なのだと思う。
だけど、それは絶望的な…死にたくなるような哀しみではなく、優しさを含む哀しみなので、辛いながらも「抱えていてもいいかな」と思える。
徹底的に苦手なシュチュエーションの小説に、ここまで思い入れるとは自分でも思っていなかった。
2008年はまだ半分も過ぎていないけれど、この作品は私にとって今年読んだ最高の恋愛小説になるんじゃないかと思う。それくらい良かった。
ちょっと重い作品なので、すぐに読むのはキツイけれど、また、ゆっくりと読み返したいと思う。