大崎善生は初挑戦の作家さん。
題名になっているアジアンタムは観葉植物である。個人的に好きな植物なのだが、現物はブルーと言うよりグリーン色。
語呂が良いのと「心のブルー」を引っ掛けてみたのだと思うのだけど、ちょっぴり腑に落ちない題名だと思いつつ、読みはじめた。
アジアンタムブルー
葉子を癌で失ってからというもの、僕はいつもデパートの屋上で空を見上げていた――。
万引きを犯し、衆人の前で手酷く痛めつけられた中学の時の心の傷、高校の先輩女性との官能的な体験、不倫による心中で夫を亡くした女性との不思議な縁、客の心を癒すSMの女王……。
主人公・山崎が巡りあった心優しき人々と、南仏ニースでの葉子との最後の日々。青春文学の名作『パイロットフィッシュ』につづく、慟哭の恋愛小説。
アマゾンより引用
感想
恋人を癌で亡くした男と、夫に心中された女が出会うところから物語がはじまる。
主人公の心象風景だの、生死感などが描かれていて大正から昭和に活躍した作家達を連想させるような古風な雰囲気があるのだが文章はサラッとしていて、現代風で読みやすい。
嫌味のなく、ちょぴり小洒落た作風は、なかなか好感が持てた。
「憂鬱のなかから生まれる優しさ」だの「無敵の優しさ」だの作品中で「優しさ」という言葉がキーワードになっているらしく優しく生きるって素敵なことだという当たり前のことが当たり前に描かれいて、読んでいてホッとしてしまった。
こんなに素直に「優しい」を連呼する作品は珍しいのではないかと思う。
おおむね好印象だったのだが、やや物足りなさがあるのは否定できない。
「生きる」だの「死ぬ」だのといったことが大きなポイントになっているのに作者の描く生と死は、メレンゲ菓子のように頼りなくて掴み所がなく、実感として迫ってくるものがなかった。
意地の悪いとらえ方をすれば「紙の上に書かれた1つのお遊び」のようで吸引力が弱すぎるように思う。サラッとした描き方も、また味なのかも知れないけれど。
大絶賛できるほど、心に迫った作品ではなかったが、これからもチェックしたいと思う作家さんに出会えて良かったと思う。
なんとなく、今後に期待できそうな予感がするのだ。次の作品に期待しよう……と思った1冊だった。