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蚤と爆弾 文春文庫 吉村昭

数年ぶりの吉村昭。吉村昭、没後10年と言うことで未読作品を手に取ってみた。

今回は森村誠一『悪魔の飽食』でもテーマになった第二次世界大戦時、満州で細菌兵器の実験をしていた731部隊がテーマ。

731部隊は、第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関のひとつ。

正式名称は関東軍防疫給水部本部で、731部隊の名は、その秘匿名称(通称号)である満州第七三一部隊の略。

満州に拠点をおいて、防疫給水の名のとおり兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務とすると同時に、細菌戦に使用する生物兵器の研究・開発機関でもあった。

そのために人体実験や、生物兵器の実戦的使用を行っていたとされている。

Wikipediaより引用

吉村昭らしく地味で淡々とした調子で物語が進んでいく。

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蚤と爆弾

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ザックリとこんな内容
  • 第二次世界大戦中の731部隊がテーマ。
  • 731部隊では、おびただしい鼠や蚤が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌といった強烈な伝染病の細菌が培養されていた。
  • 俘虜を使った人体実験を送った関東軍による細菌兵器開発をした人間達を描いた長篇小説。

感想

テーマがテーマなだけに倫理的に言うと色々とアウトだ。

「戦争では人を殺すために兵器を作る。細菌兵器の開発(とそれに伴う人体実験)もその一環である。なので何の問題も無い」と言う主人公、曽根の言い分をどう受け止めるかは読者自身が考えるべき事なのだけど、主人公のマッドサイエンティストっぷりが際立っていて実に怖い。

人間ドラマ的な部分は徹底的に排除していて、淡々と事実が綴られているに過ぎないのだけど、だからこそ余計に怖い。

やりたくてたまらなかった人体実験が、戦争という大義の元では難なく実現出来てしまう。「動物実験も悪くないけど、やっぱ人間のほうが効率いいし、使い勝手いいやん」くらいの軽い感じで描かれているあたりは本当なゾッっとする。

この作品は「面白くて一気読み」というタイプではない。

人体実験のくだり、人体実験の事実を後世に残さないよう施設を爆破するくだり、そして主人公の葬儀の場面あたりは読んでいて、胸に迫るものがあるものの、中だるみする部分があるのも事実だ。

「事実を丁寧に淡々と」となると、どうしても仕方がないのだけれど、視点が大き過ぎて、戦況なども混ぜ込まれるため「ところで、例の実験の話はどうなりましたっけ?」みたいな気持ちにさせられたりもした。

ネタバレ恐縮だけど、細菌兵器の開発に心血を注いだ主人公は最後で自分を正当化している。

しかし主人公の葬儀の場面は興味深い。1000名もの焼香客が訪れるも彼らは互いに目を逸らし、焼香だけして散り散りになっていく。

細菌兵器に関わった人達なのだけど、彼れは決して一枚岩ではなく、主人公のように「自分は悪く無い」と思って生きていた訳ではなさそうなあたりが、せめてもの救いだな…と思った。

戦争の狂気と人間の残酷性。

この作品には世界の嫌なところをギュギュッと押し込めてある。読み応えのある作品だし、ある意味面白くもあるけれど、嫌な気持ちになる事請け合いなので「是非、読んでみて~」とは、とても言えない。

私自身は読んで良かったと満足している。

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白い木蓮の花の下で
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