なかなか面白い作品だった。「札幌近代史小説」とでも言うのかな。札幌の近代史…と言っても、一分野にのみ焦点が当てられているので学校の教科書のような感じではない。
5章からなる小説なのだけど章ごとに主人公が違っている。(島義勇、内村鑑三、バチラー八重子、有島武郎、岡崎文吉)人選は作者の好みなのかなぁ~なんてことを思った。近代史とか近代文学が好きな人だったら「名前は知ってるけど実際の人となりは知らないな」って面々だと思う。
連作短編とも違うし1人の人生の一代記とも違う。門井慶喜セレクションよにる「札幌誕生」の物語なのだと思う。
札幌誕生
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島義勇は幕末、蝦夷地開拓の任を負ったが札幌建設に着手した。未開の原野に区画や道路が刻まれ、都市の骨格が形づくられていくが政治的対立や理想との乖離の中で事業は揺らぎ、志半ばで彼は去る。
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時を経て札幌農学校に集った若者たちは、西洋思想や信仰と出会い、自らの生き方を模索する。内村鑑三は理想と現実の間で葛藤しながら精神的支柱を求めていく。
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和人中心の開拓が進むなか、アイヌ社会は大きな変化に直面する。バチラー八重子は自らの出自と時代の狭間で揺れながら、歌を通して同胞の思いを表現しようとするが…
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そして時代は大正から昭和へと進む。有島武郎の理想と土地解放、岡崎文吉の治水事業が重なり、札幌は文化と生活を備えた都市へ成熟していく。人の思想、営み、自然との闘いが積み重なり、原野の町は持続する都市としての姿を整えていく。
感想
『札幌誕生』は札幌の歴史を紡いだ小説なのかな~と思って手に取ったのだけど、札幌の歴史と言うよりも「門井慶喜セレクションによる札幌に縁のある人のプチ伝記詰め合わせ集」って感じだった。
一応時系列に沿った構成にはなっているものの「バトンを繋ぐ」って感じではない。バチラー八重子は文学ジャンルの人だったし、有島武郎に至っては札幌と縁があったと言っても彼自身は札幌に身を捧げたタイプの人ではなく人生の拠点は東京だった。細けぇことは気にしちゃいけない。札幌に縁があったのであればオールOK。主人公達は全く違うタイプだけど「真面目に生きた人である」ってところは共通している。
それぞれの章の方向性は少しずつ違っているけれど、この作品を読み通してことで「歴史ってたくさんの人が作り上げていくものである」ってことを実感した。歴史書ではなくて歴史小説。歴史小説であって伝記ではない。
主人公ごとではバチラー八重子と有島武郎が面白かった。私自身、文学好きだから…ってこともあるだろうけど、バチラー八重子は唯一の女性主人公ということで心を寄せることができたし、有島武郎はお坊ちゃまっぷりがイカしていていた。
北海道在住の人とか、そうでなくても漫画『ゴールデンカムイ』が好きな人だったら楽しめる作品だと思う。北海道に対して興味が持てたり、今までよりも北海道のことを好きになれたりするんじゃないかな…と思う。


