前回読んだ『傲慢と善良』が面白かったので「じゃあ、もう1冊」とばかりに読んでみた。今回は「不妊治療の末に特別養子縁組をした夫婦の物語」と知り、テーマ的に読んだみたかったのもある。
ちなみに「涙腺崩壊」と言われる類の作品らしく高評価が流れてきがちだけど、私の涙腺はビクともしなくて「もしかしたら私は人非人なのかも知れない」みたいな気持ちになってしまった。
朝が来る
- 佐都子と清和とは長い不妊治療の末に子を授かることをあきらめ、代わりに“特別養子縁組”という制度を通じて「朝斗」という男児を迎え入れ愛情をもって日々を育んでいく。
- ある朝、佐都子達に「子どもを返してほしいんです」という電話かかってくる。発信者は「産みの母」を名乗る女性だが、その主張と姿には大きな違和感があった。
- 朝斗の生みの母である片倉ひかりは中学生のときに妊娠し出産を経て息子を手放さざるを得なかった
- 二人の母と一人の子……日常が揺らぎ始める。
感想
不妊治療の末に特別養子縁組で子どもを迎える夫婦と中学生で妊娠・出産をした少女を中心とした物語なのだけど、私は「涙腺崩壊」どころか、腹が立つ部分が多くてどちらかと言うと壁本に分類したい作品だった。ただし小説としては成り立っているし作品のレベルが低い訳ではない。
特別養子縁組を迎える夫婦についてき共感できる部分が多くひと言でいうと「よく出来た人間」だった。血の繋がりの無い子を我が子として育てる覚悟をして、親戚や親(子どもからすると祖父母)を説得するような人達なのだもの。そりゃぁ、人として出来ている。
私がムカついたのは中学生で出産した少女とその家族サイドの物語。同情するべき部分もあったのだけど「1人の人間の一生をどう考えているんだよ?」という腹立ちを感じたし、少女の浅はかさと言うか自分勝手な生き様とか1ミリも同情できなかった。
……だけど分かるのよ。分かる。望まぬ妊娠と出産なんて現実世界では「よくある話」でしかない。
私が最もムカついたのはそれでもなお「良い話風」に綺麗にまとめてしまったところ。ハッピーエンド風にしているけれど、普通に考えたらそうじゃないでしょ過ぎる。希望を匂わせたラストにしているけれど、クズ人間はずっとクズであることの方が多いのだ。「あの類の人間ってまた同じことするよね」としか思えなかった。
この種の作品を素直に受け止められない自分の方がもしかしたらゲスい人間なのかも知れないけれど、なんとも後味の悪い1冊だった。




