映画『8番出口』はインディーゲームクリエイターKOTAKE CREATE(コタケクリエイト)が開発した脱出ゲーム『8番出口』を原作に作られた。
私もX(Twitter)で話題になっていたのは知っていたもののゲーム公開時は手を付けることなくスルーしていた。しかし映画予告を観て「ナニコレ? めちゃくちゃ気になる」とまずはゲームをプレイした。
そして人間ってのは貪欲なもので「あのゲームがどんな風に映画化されたのかな?」と気になって映画館に足を運んだ。
「しょせんゲームの映像化でしょ?」と思っていたけど想像以上に面白かったので感想を残しておたい。
なお『8番出口』の鑑賞を考えておられる方には「まずはゲームをプレイしてください」と強く申し上げておきます。ゲームをプレイしなくても分かるかと思いますがプレイした方が楽しめる気がします(あくまで私の個人的な見解です)
今回はネタバレ込の感想&考察です。盛大にネタバレしますのでネタバレNGの方はご遠慮ください。ネタバレ喰らっても美味しく戴ける方、あるいは「観に行く気は無いけど話題になってるし、興味あるから内容を知りたいんだ」って方はお読みください。
8番出口
8番出口 | |
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監督 | 川村元気 |
原作 | KOTAKE CREATE『8番出口』 |
出演者 | 二宮和也 河内大和 浅沼成 花瀬琴音 小松菜奈 |
音楽 | Yasutaka Nakata (CAPSULE) 網守将平 |
公開 | 日本 2025年8月29日 |
あらすじ
一人の“迷う男”(演:二宮和也)が、地下鉄の改札を抜けた先にある、白く無機質な地下通路に足を踏み入れる。そこには「出口8(8番出口)」という看板があるものの、いつまで歩いても出口にはたどり着けなかった。通路の中で一度すれ違った“スーツ姿の男”と再び出会うという違和感に気づいた彼は自分が同じ道をぐるぐるとループしていることに気付いてしまう。
壁に掲示された“ご案内”にはこんなルールが記されていた。
- 異変を見逃さないこと
- 異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
- 異変が見つからなければ、引き返さないこと
- 8番出口から外に出ること
このルールに従い、男は不思議な“異変”を見逃さないように意識しながら進み続ける。果たして彼は無限ループの迷宮から脱出することは出来るのか?
ゲームをプレイしろ。話はそれからだ。
先にも書いたけれど映画『8番出口』を観ようかと思っておれらる方に強く申し上げておきたい。「まずはゲームをプレイしろ。話はそれからだ」と。
この映画を鑑賞するにあたって1番大事なのは「先にゲームをプレイする」ってこと。もちろんプレイしなくても分かるようにはなっているけど、騙されたと思ってプレイしてから観て戴きたい。
さて。映画版ではゲームでは描ききれなかったこと…と言うか、ほんのり設定を深堀りしつつ多少の二次創作感がある。
ゲーム番ではプレイヤーしか登場しないけれど映画ではもう少し登場人物が出てくる。まずは、その紹介から。
- 迷う男(プレイヤー) 二宮和也
- 歩く男(おじさん) 河内大和
- 少年(映画オリジナル) 浅沼成
- 女子高生(映画オリジナル) 花瀬琴音
- 女性 (映画オリジナル) 小松菜奈
女性(小松菜奈)は迷う男(二宮和也の)の恋人って設定。少年と女子高生は地下通路で遭遇する。オリジナルキャラが投入されているものの8番出口の世界観は崩されていないので違和感なく楽しめた。
頑張れ二宮(迷う男)って気持ち
『8番出口』を観た昭和生まれの人間は地下通路に彷徨う二宮の姿に往年のテレビ番組『8時だよ全員集合』の志村けんを応援する気持ちと同様の感情を駆り立てられたと思う。「志村~後ろ~」とテレビの前で叫んだように「二宮~異変~」と二宮を応援しながら見守っていたのではなかろうか。
偶然だと思うのだけど「志村~後ろ~」を思い起こさせた番組は『8時だよ全員集合』だった。奇跡的に「8」が繋がっているなぁ~思ったり。
二宮の役どころはゲームではプレイヤーだけど映画には少し設定が加味されている。
- 派遣社員として働く男である
- 喘息を持っている(発作がでると薬を服用する)
- 彼女から妊娠を告げられて困惑している
二宮は地下通路に放り込まれる直前に別れると決めた彼女から電話がかかってきて妊娠を告げられている。彼女も困惑していて二宮自身も「産んでくれ」とも「堕ろしてくれ」とも言えない状態。突然そんな話を切り出されて瞬時に判断するのは無理だろ…って話。
迷う男は「とりあえず、そっちに行くから」と電話を切るが地下通路から脱出することが出来ずに何度もループしてしまう。走ったり極度に緊張したりする中で何度も喘息の発作が出て苦しい思いをする。
「キッチリ避妊せずに彼女を妊娠させてしまう男ってどうなのよ?」って意見もあるだろうけど迷う男は彼女に会うべく地下通路から脱出したい訳で、試行錯誤しながら進んでいく迷う男…二宮を応援せずにはいられなかった。
人間だもの。誰だって完璧ではいられない訳で。
それでも『8番出口』の迷う男は何だかんだ言って善人だった。善人が理不尽な目に遭うのだから酷い話だ。
おじさんの怪演凄いって!
ゲーム『8番出口』をプレイした多くの方…たぶんほとんどの方が苦しめられたであろう「おじさん」は映画では、まさにゲームの「おじさん」そのもので最高に気持ち悪かった。怖い…怖いって。身体つきなんかも「おじさん」のそれ。似た人を探してきたのか、俳優さんが役に寄せてきたのかは不明だけど実に素晴らしい。
迷う男と同じく、おじさんにも映画版オリジナルの設定が加味されていた。
おじさんも元は迷う男と同様に地下通路に迷い込んでしまった「迷う男」だった。ただし、このおじさんは二宮演じる迷う男とは違い、脱出攻略に失敗して永久に地下迷宮に閉じ込められている。
「もう人間じゃない」とか言われて気の毒ではある。彼もまた人間だったのに。何をしたんだって言うんだい?(そこを突っ込まいのがホラーのお約束ではある)
おじさんと迷う男の決定的な違い
さて。地下通路に閉じ込められてしまった「おじさん」と、迷う男(二宮)は何が違っていたのか?
おじさんが悪人だから閉じ込められてしまった…とか言うならスッキリする話なのだけど、そうじゃない。
映画にはゲームに登場しない少年が登場するのだけれど、この少年がキーマンになっている。この少年。ただの子どもではなくめちゃくちゃ有能。大人が気づかない「異変」に気付いて知らせてくれるのだけど、いかんせん子どもなので伝え方が上手じゃない。
初対面の知らない大人とスラスラ喋れたら良いのだろうけど、それがなかなか出来なくて、異変を見つけても言葉で伝えず行動で示していく。
迷う男とおじさんの違いは少年との向き合い方だった。迷う男も悪いヤツでないけれど少年と向き合うことが出来ず少年の知らせてくれた異変を見過ごして、地下通路に閉じ込めらることになってしまった。
一方、迷う男は戸惑いながらも少年と向き合っていく。そして少年もまた迷う男に心を開く。もしかしたら迷う男は1人では地下通路から脱出することが出来なかったかも知れないけれど、少年の力を借りることで8番出口に行き着いている。
- 異変を見逃さない→正しい情報を得る
- 異変があれば引き返す→人や社会と向き合って対処する
- 異変がなければ進む→前に進む勇気を持つ
『8番出口』のルールは現実世界にも通じる部分がある気がした。
『8番出口』のゲームをプレイした人なら分かると思うのだけど「前に進む」ってのもけっこう怖かったと思う。ずっと成功してきて「あと1つで脱出」みたいな場面で異変が見つからずに先に進む時って怖い。疑心暗鬼に囚われて思わず引き返して失敗した…ってことありましたよね?
迷う男は少年と向き合って少年の力を借りつつ前に進み、少年と向き合えなかったおじさん。2人も悪い人間ではなかったのに明暗が別れてしまったのは残酷な話だ。
女子高生
映画のみに登場する「女子高生」はおじさんが「迷う男」だった時に「おじさん」的役割をしていた。あくまでも推察だけど彼女も地下通路に迷い込んだ人だったのではなかろうか?
女子高生はおじさんに「毎日満員電車に乗って仕事をするより地下通路にいた方が良いのでは?」と提案している。これって凄く怖いことだけど、ある意味真理のようにも思われる。
現実世界には向き合わなければならないことが沢山ある。例えば満員電車で泣く赤ん坊。それを怒鳴りつける男…。出勤前に「妊娠したの」と告げられたりもする。それに向き合わずにいる…ってのも選択肢の1つなのかも知れない。
ラベルのボレロ
8番出口の中ではBGMでラベルが作曲した『ボレロ』が使われている。
ラベル作曲の『ボレロ』は1種類のリズムと2つのメロディがひたすら繰り返され、楽器の編成が徐々に変化することで徐々に盛り上がり、最後に爆発的なクライマックスを迎えるバレエ曲。繰り返しのパターンの中で少しずつだか変化していく様が感じられる。
私が映画の予告編を観て「この作品、観てみたい!」と感じたキッカケは『ボレロ』だった。間違い探し&ループする作品のBGMにボレロを持ってくるのはセンスあるなぁ~と感じたのだ。
少しずつ変異する地下通路に『ボレロ』ほどしっくりくる曲は無いと思う。このセンス、素晴らしいよね。ちなみに『ボレロ』は主題が18回繰り返されている。
ここにも8が繋がっているよね…と言うのは猛烈なこじつけだと思いつつ、せっかくなので記しておく。
最後の場面をどう解釈するのか?
無事に8番出口を脱出した迷う男は再び地下鉄から電車に乗り込む。地下通路に迷い込む前と全く同じ状況。
映画の冒頭で二宮演じる迷う男は社内で泣く赤ん坊と赤ん坊を泣き止ませることが出来ずに小さくなっている母親を見かける。泣き止まない赤ん坊にイラついて大声で怒鳴る男性がいるのの地下鉄の車内にいる人達は知らんぷりで母親を助ける人はいなかった。
地下通路から脱出した後も同じ状況が展開される。冒頭で迷う男は気になりつつも巻き込まれることが嫌で自分も同じように知らんぷりを決め込んでいたがラストの場面では動きが変わっている。迷う男はスマホから顔を上げて明らかに右方向(赤ん坊と母親がいる方向)を向いている。
映画の中では迷う男がその後どんな行動を取ったのかは描かれておらず「あとはご想像にお任せします」って形になっているが、迷う男と共に8番出口を彷徨った観客には迷う男が以前と違う行動に出ることが分かると思う。
彼女から妊娠を告げられて困惑していた迷う男の心は地下通路を彷徨う中で明らかに変化している。
地下通路は謎の迷宮であると同時に迷う男の心そのものだった…みたいな解釈も出来るのも。そして脱出のキーとなった少年と「異変を見逃さないこと」というルールは8番出口の大事なポイント。
異変を見逃さない。そして人と向き合う。迷う男は少年と向き合い、自分がいる社会や彼女と真摯に向き合うことで迷宮から脱出することが出来たんじゃないかな…と感じた。
『8番出口』を観に行く時は「ゲームの映画化か~B級作品として楽しめたらいいかな~」くらいに思っていたけど予想以上に良かった。『8番出口』をプレイしたゲーマーにはぜひ観てくださいとオススメする。
