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海神 染井為人 光文社文庫

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『海神』は東日本大震災がテーマの小説はこれまでも数多く夜にでているけれど『海神』は今までに無かったタイプの作品だった。今まで「復興ビジネス」に視点を置いた震災小説は無かったと思う。

復興ビジネスに限ったことではないけれど、ふと周囲を見渡してみても制度の隙を突いた補助金ビジネスの多いことと言ったらない。本来は国がやるべき事業を民間に託すとどうしても、綻びが出てしまう。

一般的な補助金ビジネスも悪と言えば悪だけど、復興ビジネスとなるとさらに悪徳感が増す気がする。

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海神

ザックリとこんな内容
  • 物語の舞台は東日本大震災で被災した三陸沖の島。
  • 復興支援のプロ、遠田政吉は行政の支援も届かない地獄で救助、遺体捜索などに奔走。救世主として信望を得るのだが復興支援金の横領疑惑が発覚する。
  • 島出身の新聞記者、菊地一朗が疑惑の解明のため遠田の過去を探っていくうちに様々なことが明らかになっていく。

感想

文章に勢いがあってイッキ読み出来る面白さだった。ちょっとご都合主義な展開だったり「いくらなんでも、そりゃないわ」みたいな部分があったのも事実だけど、その欠点を横に置いても良いくらいには面白いと思った。

染井為人は悪人の描き方が上手過ぎる。「ああ…そうだよね。本当に悪いヤツってこんな感じだよね」と納得出来る悪人描写が最高に良かった。「盗人にも三分の理」って言葉があるけれど、悪人は悪人の言い分やら信念があって、それに乗っ取って動いているのだなぁ~と妙に感心してしまった。

復興ビジネスをテーマに持ってきたのは面白いと思ったし、勢いのある作品でイッキ読み出来る面白さの反面、いわゆる「いい人」とか「被害者」の描き方はテンプレ的だなぁ~とも思った。

島の人間達はなんだかんだ言って善人が多いのだけど、そんなに分かりやすく「いい人」って案外いないと思うのだ。島の子ども達も天使みたいで違和感があった。不幸な育ちをしていて、そんなに良い子に育つものだろうか?

今までの作品をからも感じたことなのだけど、染井為人は人間のダークサイドを描くのが得意な作家さんなのだと思う。善人的な人をもう少しリアルに描くことができたらな、もっと物語に厚みが生まれるのかな~と思ったりした。

本編とは関係ないことだけど染井為人ご自身も復興関係の仕事に携わっていたらしく、あとがきに書かれていた文章にグッときてしまった。人の不幸につけ込んで暴利を貪る輩がいるのも本当だけど、そうじゃない人の方が多いのだ。

自分の目で見て感じたことを小説に残すことって小説家にとっての使命だと思うし、それでこそ小説家だと思う。『海神』は突っ込みどころのある作品ではあるけれど、震災小説として長く読み継がれて欲しい。

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