『リズと青い鳥』は武田綾乃による小説シリーズ『響け!ユーフォニアム』の中の一編『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を原作にしたアニメ映画でテレビアニメシリーズのスピンオフ…と言う立ち位置。
高校3年生のフルート奏者・傘木希美と同じく高校3年生のオーボエ奏者・鎧塚みぞれを主軸にコンクールまでの日々を描いている。
巷では「百合(ガールズラブ)作品」だと言われていたので「ほほぉ~ん。女の子同志の友情のような恋愛って感じですかね?」くらいのイメージを持っていたので、Amazonプライムでふんわり視聴したのだけれど、なんかこぅ…
思ってたのと違う!
今回は盛大なネタバレ込みの感想です。くれぐれもネタバレNGの方はご遠慮ください。
リズと青い鳥
リズと青い鳥 | |
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Liz and the Blue Bird | |
監督 | 山田尚子 |
脚本 | 吉田玲子 |
原作 | 武田綾乃 |
出演者 | 種﨑敦美 東山奈央 本田望結 藤村鼓乃美 山岡ゆり 杉浦しおり 黒沢ともよ 朝井彩加 豊田萌絵 桑島法子 中村悠一 櫻井孝宏 |
音楽 | 牛尾憲輔 |
主題歌 | Homecomings「Songbirds」 |
公開 | 日本 2018年4月21日 |
上映時間 | 90分 |
あらすじ
北宇治高校吹奏楽部。傘木希美と鎧塚みぞれにとって最後のコンクールの自由曲が『リズと青い鳥』に決まった。この曲はある童話を題材にした作品だった。
『リズと青い鳥』の第3楽章にはオーボエとフルートの掛け合いがあるのだが、ある日の朝練で二人はそのパートを試しに吹いてみることになる。早く本番を迎えたいと希美が顔を輝かせる一方、ずっと希美と一緒にいたいと考えているみぞれは「本番なんて、一生来なくていい」と呟く。
みぞれは卒業後の進路を決めかねていて担任に提出する進路希望調査書も白紙で出していた。そんなある日、みぞれはトレーナーの新山聡美に音楽大学のパンフレットを渡され、音大への進学を勧められる。そのことを知った希美は自分もその大学を受けたいとみぞれに告げる。
オーディションを終え、正式に二人がソロを担当することとなるが、なかなか演奏が噛み合わず、顧問であり指揮者の滝昇から注意されてしまう。
練習後、みぞれはトランペットパートの後輩である高坂麗奈から希美のことが信用できていないのではないかと問いかけられて動揺する。ソロのある第3楽章はリズと青い鳥の別れが描かれるパートである。みぞれは青い鳥を希美に重ねていて、リズがなぜ青い鳥を逃がしたのかを理解できずにいた。
ある日、希美は新山に自分も音大を受けるつもりであることを伝える。しかし、応援はされたものの、みぞれのように強く勧誘されることはなかった。その後も、合奏の合間に新山が指導するのはみぞればかりだった。
2人の中学時代からの友人である吉川優子と中川夏紀も2人の違和感に気づいており、希美と3人きりで話をすることになる。希美はみぞれに対しての劣等感を抱えていること、そして本当に自分が音大に行きたいのか悩んでいることを打ち明ける。
一方、みぞれは新山にソロの相談をしていた。リズの気持ちが理解できないと言うみぞれに新山は「もし自分が青い鳥ならどうか?」と問いかける。愛するリズの願いを受け入れるしかできなかった青い鳥に共感したみぞれは自分が青い鳥であったことに気づく。
翌日、みぞれは滝に第3楽章の通し練習を提案し早速始まった練習にて驚くほど成長した演奏を見せる。希美はみぞれの演奏にただただ圧倒され技術力の差に涙をこぼす。
合奏後、二人きりになった希美はみぞれに自虐的な言葉を投げかける。しかしみぞれは希美の言葉を遮り自分にとって希美は特別な存在であることを伝え「大好きのハグ」をする。自身の想いを伝えるみぞれに対し希美は「みぞれのオーボエが好き」と応え、何かを振り切ったように笑い出す。
希美は音大受験を諦め、普通大学の入試に向けた勉強を始める。みぞれは音大受験を心に決める。
恋なのか百合なのか友情なのか?
『リズと青い鳥』は高校生の女の子の恋を描いた作品ではあるものの「百合」かと言われると、ちょっと違う気がした。そして友情とも言い難い感じ。
女の子同志の感情のすれ違いを描いた作品ではあるものの、そこに音楽(吹奏楽)が介入することで、非常に厄介な話になっている。
私は『リズと青い鳥』をふわふわした砂糖菓子のような作品かと思って視聴したのだけれど、とんでもなく重たい話で「うわぁぁぁ」っと頭を抱えてしまった。
持つ者と持たざる者
「音楽(吹奏楽)が介入することで非常に厄介な話になっている」と書いたけれど『リズと青い鳥』の根本はそこにあると思う。そもそも『響けユーフォニアム』のスピンオフ作品だと思えば正しい形だと言える。
『リズと青い鳥』は「持つ者と持たない者の物語」だと言っても良いと思う。オーボエ奏者の鎧塚みぞれは持つ者。フルート奏者の傘木希美は持たない者。そして「持つ・持たない」は音楽の才能と可能性。
2人は「友達」ではあるけれど、吹奏楽を先にはじめたのは希美だった。みぞれは「希美が誘ってくれたから」吹奏楽部に入ったに過ぎない。恐らく吹奏楽(音楽)への執着が強いのは希美の方だと思うのだけど、残念ながら神様は希美の音楽の才能を与えてくれなかったのだ。
競技でも芸術系でも「友達を誘って一緒に頑張ってきたけど自分より友達の方が上手くなった」ってケースはよくある話だと思う。アイドルオーディションを受けにきた2人組で「付き添いのつもりで来ました」みたいな子が見初められる…みたいな話。
希美とみぞれの関係は、技量の差(才能の差)が開いてしまったためにギクシャクしてしまう。
希美に才能があって誘われてついてきたみぞれの方が技量的に追いつかないのであれば、みぞれは「希美の側で希美を応援するだけで幸せ」みたいな話なっただろうけど、逆だったのが不幸過ぎた。希美からしてみれば、自分が誘って吹奏楽に引き入れた友達との方が上手になっていって音大進学を進められたのだから心穏やかではいられなかったと思う。
希美はみぞれに対して悔しさや嫉妬…様々な感情を持っていたと思う。その一方でみぞれは「吹奏楽と希美。どっちが大事?」と聞かれたら迷わず希美を選んだだろう。だからこそ「手を抜いて演奏をする」なんて事が出来たのだと思う。
残酷な片思い
そもそも。中学時代にみぞれが吹奏楽部に入部したのは希美に誘われたから…って理由だった訳だけど。ちょっぴり残酷な観点から、このエピソードを深堀りしたい。
当時、みぞれは人見知りで陰キャの帰宅部だった。希美がそんな自分を部活に誘ってくれたことが嬉しかったのだと思うのだけど「どうして希美はみぞれを誘ったのか?」については描かれていない。
みぞれ視点だと希美は「自分に声を掛けてくれた人。特別な友達」だと思うのだけど、希美は「吹奏楽の人数を増やしたかった」程度の気持ちで、みぞれに声を掛けたのではないかと思う。「吹奏楽部の部員を増やしたかった。誰でも良かった」みたいな感じ。
実際、文化部に限らず競技人数が多い団体競技で「そもそも学校全体の生徒数が少ない」なんて状況だったりすると「とりあえず部員を確保しないと競技できない」って状況に陥ってしまう。吹奏楽部の場合、しっかり人数を確保しないと楽器構成ができなかったりコンクールに出るのが不利になったりする。アグレッシブな人達は「とりあえず頭数を揃えるために「その辺にいる人」にでも安易に声をかけて部活に勧誘するものだ。
みぞれは希美に対して特別な感情を抱いていたけれど希美はみぞれのことを何とも思っていなかっと思う。その証拠に「大好きのハグ」をした時、みぞれは希美に対して言葉のシャワーを浴びせるように「希美の◯◯が好き」と言いまくるのに対して、希美は「みぞれのオーボエが好き」としか言わない。実際それが希美の本心なのだから仕方がない。
「あなたのオーボエ(だけ)が好きです」とか残酷過ぎる。男女関係なら「お前の身体が目的なんだ」みたいな話だ。
剣崎梨々花
さて。『リズと青い鳥』において、希美とみぞれ以外にも注目したい登場人物がいるので、少し触れておきたい。
2年生の剣崎梨々花はみぞれと同じくオーボエ奏者。みぞれのことが好きで、何かとみぞれにちょっかいをかけてくる。実際、剣崎梨々花はみぞれのことを「特別な存在」として思っていて、それは恋のような感情だと思う。
「希美以外の人間には全く興味ありません」と言う姿勢を保っているみぞれにグイグイ切り込んでいく剣崎梨々花の姿は切り込み隊長のようで勇ましかった。最後まで希美とみぞれの間に割って入ることは出来なかったけれど。
剣崎梨々花は脇役ポジションなのだけど『リズと青い鳥』において重要な小道具を持っていた。みぞれとの関係について希美に相談した際、剣崎梨々花は「お礼です」と言って希美にコンビニのゆで卵を手渡すのだけど「ゆで卵」はなかなか重要なモチーフだと思う。
『リズと青い鳥』において青い鳥が重要なモチーフになっている。「青い鳥は音楽の才能を持って羽ばたいていく者」の象徴だと考えて良いと思う。そしてゆで卵…ゆで卵は孵化することが出来ないのだ。
- みぞれ=青い鳥
- 希美=ゆで卵
物語の最初の方で2人の役割が示唆されていたのは面白いと思った。
まぁ…そんなウンチクはさておき。みぞれが自分を好いてくれる剣崎梨々花のことを好きになれたら良かったにね…とは思う。人の心はままならない。そこが切ない。
『リズと青い鳥』は色々な意味で「凄いなぁ」とは思ったけれど、観ていて疲れるし観た後もスッキリしないので2回目は観たくない。それにしても、よくぞここまで残酷な話を作ったものだなぁ~と感心したし驚かされた。
好きか嫌いか…ってところは置いておくとして名作であることに間違いない。