『ここはすべての夜明けまえ』は第11 回ハヤカワSF コンテスト特別賞受賞にして作者、間宮改衣のデビュー作。
「なんか厨二病臭い表紙だな~」と思いつつ手に取った。実際、厨二病臭い…と言うか、アニメやラノベの設定ではありがちな設定の物語だったのだけど、なんだか面白くて引き込まれてしまった。
ここはすべての夜明けまえ
- 2123年10月1日。九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため自己流で家族史を書き始める。
- 約100年前「わたし」は自殺を希望していたのだが、父親の強い勧めもあって自殺ではなく身体の苦痛を感じずが永遠に老化しなくなる手術を受ける。
- 老いて死んでいく家族。安楽死をする家族などを見送った「わたし」が見てきたこと、経験してきたことを淡々と描く。
感想
『ここはすべての夜明けまえ』の主人公である「わたし」の設定を知った時『攻殻機動隊』を知っているヲタクなら「草薙素子かよ!」とツッコんでしまうと思う。
実際「わたし」は攻殻機動隊で言うとことろの電脳化手術を受けたようなもので、草薙素子と「わたし」の違いは戦闘能力の有無。わたしは老いないし、キチンとメンテナンスを受けている限りよほどの事がなければ死ぬこともない。近未来設定なので、そこのところは素直に受け止めるしかない。
物語の中では電脳化的な手術だけでなく、合法的に安楽死も認められているし、医療技術も現代よりもずっと進んでいる。そんな世界で「わたし」は今まで経験したこと、家族のことなどを一人語りしていく。
読んでいる最中はなかなか面白かったのだけど、なんと言うのかな…あとで考えさせられるタイプの作品ではないし、作者の主義主張が前に出た作品でもなかったので「軽いな」って印象。
ただ現代日本が抱えている問題やテーマなどを全部盛りに乗っけているのに、特に深く追求するでもなく「こういうことがありました」くらいの平坦さで一気に書き切ったところは面白いと思った。
- 児童虐待と機能不全家族
- LGBTの姉
- 安楽死
- 親の介護問題
……など、ラノベ的な軽さで物語を進めつつ、様々な問題を全部盛りで突っ込んでいるのに、特に主張もなく投げっぱなしにしているところに交換が持てた。投げっぱなしだからこそ最後まで「わたし」の話を聞いていられた(読んでいられた)のだと思う。
「ものすごく良かった」とは言えないまでも、今までには無かった作風で面白いと思った。作者の次の作品が出たら読んでみたいと思う。