『スピノザの診察室』は2024年の本屋大賞4位の作品。今年は意識的に本屋大賞系の作品を読んで、未知の作家さんを開拓しようと思っている。
作者は医師で病院系の物語…ってことで読んでみたのだけど、個人的にはイマイチのめり込む事が出来なかった。だけど、手堅い作品だとも思った。私が点数をつけるのなら70点ってところ。
良くもなければ悪くもない。たぶん…翌年になれば物語の内容を忘れてしまっていると思うのだけど、実のところ私の心に深く刺さった部分もあるのが悔しい限り。
スピノザの診察室
- 主人公の町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医。
- 哲郎が30代の後半に差し掛かった時、シングルマザーだった妹が若くして亡くなったため、甥の龍之介を引き取って一緒に暮らしている。
- しかし、哲郎は大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。哲郎は甥との生活のために大学を去り、地域病院へ移ったのだった。
- 哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが……
感想
ざっくりと感想を言うと「ラノベだった」ってことに尽きる。そもそも設定がヤバい。
- 主人公は飄々とした知的美男子
- しかも主人公は超有能
- 主人公は甥を引き取って男2人暮らし
- 甥は京都の超絶偏差値の高い私立中学に通っている
- 後半から若い後輩の女性医師が颯爽登場
……あまりにも作り物過ぎて申し訳ないけど作品に没入することが出来なかった。設定からすると甥っ子の中学も想像できるのだけど、中学受験界隈の人からすれば「フザケンナ」みたいな設定だと思う。
分かります…ラノベって思って読むべきなんですよね。だけど50歳には難しかった。いちいち突っ込まずにはいられなかった。物語自体は「イイハナシダナー」って感じなのだけど、異世界転生小説並に主人公が強すぎる設定だと大人が読むにはちょっとキツイ。
正直、この作品は感想を書かずに流してしまうタイプのものなのだけど、どうしても私の心に引っ掛かる部分があった。引っ掛かる…どころか呪いのように私の心を捉えて離さないのだ。
主人公の町哲郎は「無類の甘党で和菓子好き」って設定だった。作品の中には何度となく京都の和菓子が登場する。そして町哲郎の語る和菓子は猛烈に美味しそうでたまらんものがある。
町哲郎の好きな和菓子は有名どころの品ばかりなので、私もすでに食べているのだけど、町哲郎が「人生の最後に食べたい」と言うほどに愛している長五郎餅は食べたことがないのだ。
長五郎餅…聞いたことはあったけど、そんなに美味しいの?
『スピノザの診察室』を読み終えた後、私の頭の中は長五郎餅で占拠されてしまった。おそらく長五郎餅を食べるまで、この呪いは解けないだろう。
夏川草介……医療小説もいいけど、いっそスイーツ小説を書いたら良いと思う。とりあえず私は「今年中に長五郎餅を食べる。絶対にだ!」と心に誓った。
夏川草介の医療ネタ作品はもう読まなくてもいいかと思うのだけど、食べ物系の作品を書いてくれたなら読んでみたい。