染井為人の作品を読むのはこれで3冊目。ミステリは得意じゃない…とか言いつつ、染井為人の路線は好きなんだと思う。前回読んだ『正体』も気に入ったし、今回の『悪い夏』も好みだった。
ただし『悪い夏』は全面的に好き…まではいかない。
悪い夏
- 生活保護受給者のもとを回るケースワーカーの守は26歳。自分自身にも心に抱えるものがありつつ、日々の業務に勤しんでいた。
- 同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケース(担当)の女性に肉体関係を迫っていると知った守は真相を確かめようと同僚女性と連れ立って訪問することになる。
- しかし守は彼女との出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外してしまう。そして…。
感想
今回『悪い夏』を読んでみて、私が染井為人を好きな理由が理解できた気がする。染井為人って人は人を裁いたり、断定したりしない人なんだなぁ~と気付いた。自身の思想や考えはありつつも傍観者としての作家…って立ち位置が確立されているのだと思う。
『悪い夏』は生活保護界隈をテーマにした作品。主人公の青年は生活保護のケースワーカー。ただし群像劇的な作品でもあるので、登場人物が多く、しかも全員重要な役割を担っていた。
登場人物1人1人に言い分があり、作者はそれを責めるでなく描いているところがとても良かった。
ただ今回のテーマは生活保護。私は仕事柄、生活保護受給者と関わることがある。そして親友は主人公の守と同じ生活保護のケースワーカーをしているため、生活保護界隈については一般の人よりもリアルな知識を持っているため『悪い夏』で描かれていたことの全てにリアルを感じることが出来なかったのが残念だった。
『悪い夏』で描かれていたた生活保護のイメージは新聞やテレビニュース、ネット記事などにあるテンプレ化したものでしかない。たしかに報道されているイメージも生活保護界隈の一部を切り取ったものではあるけれど、それが全てではないしどちらかと言うとレアケースなのだ。そのため読んでいてどうしても「作り話」としか思えなくて、ガッツリと物語の世界に浸ることができなかった。
ただ、それはそれとして。小説としては面白い部類だとは思う。最後のドタバタ感は雑な気がしたものの、よくできた作品だと関心したし、これからも染井為人の作品は追いかけていこうと思った。