逢坂冬馬の作品を読むのは2022年本屋大賞を受賞した『同志少女よ敵を撃て』に続く2冊目。
前作はロシアが舞台だったけれど『歌われなかった海賊へ』はヒトラー支配下のドイツが舞台。作者が好きな方向性はなんとなく理解した。なお私も大好物なので問題ない。
ナチス・ドイツと言うとユダヤ人の虐殺とか『アンネの日記』を思い浮かべる日本人が多いと思うのだけど、私もその中の1人。
『歌われなかった海賊へ』は今まで日本ではあまり取り上げられてこなかったドイツの若者達による反ナチス組織エーデルヴァイス海賊団がモデルになっている。エーデルヴァイス海賊団は実在しているけれど作品自体はあくまでも小説で史実ではないらしい。
歌われなかった海賊へ
- 物語の舞台1944年、ナチ体制下のドイツ。父を処刑されて居場所をなくした少年ヴェルナーは体制に抵抗しヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。
- エーデルヴァイス海賊団の面々は市内に敷設された線路の先で「究極の悪」に気づいてしまう。
- 彼らのとった行動と、その結末は?
感想
『歌われなかった海賊へ』は『同志少女よ敵を撃て』からすると反対側から捉えた作品とも言える。『同志少女よ敵を撃て』の少女達はナチス・ドイツと戦っていたけれど、今回はナチス・ドイツ体制下でのドイツの話。
期待値が高かったから…ってこともあるだろうけど、前作よりもハマり切れなくて残念だった。理由は分かっている。『歌われなかった海賊へ』は登場人物がやたらと多くて、散漫になってしまった分、登場人物の誰かに心を寄せることが出来なかったのだ。
群像劇が悪い訳じゃない。群像劇なら群像劇として、物語の面白さやスピード感が必要だと思うのだけど、1人1人の人物背景だの心情だのを中途半端に描いているところが足を引っ張っているのだと思う。
- 若者の青春を描いた作品
- 戦争をテーマにした作品
……と言う意味では良く出来ていると思うし、今まで日本ではあまり知られていなかったエーデルヴァイス海賊団をテーマにしているのも良かったと思うのだけど、それだけに、散漫な印象に落ち着いてしまったのが本当に惜しい。
前作の時も思ったのだけど逢坂冬馬はアニメの脚本とかの方が向いているのかも知れない。『歌われなかった海賊へ』は散漫な印象を持った…と書いたけれど、これがある程度尺のあるアニメで、1話を使って登場人物が引き立つエピソードを繋げつつ本筋を繋げていく…とかだったら、素晴らしい作品になっていたと思う。
もっとも『歌われなかった海賊へ』で描かれていた重いテーマをアニメにして需要があるとも思えないのだけど。
面白いと言えば面白いのだけど文学小説としてはちょっと弱い。
今回は前作ほど夢中にはなれなかったけど次回作に期待したい。