村上春樹の長編小説の新作が発売されてしばらく経つけど、いまいちその気になれなくて「そう言えばコレは読んでなかったな」という古い短編集を読んでみることにした。
私にとって村上春樹は好きでも嫌いでもない作家だけど、なんかこう…現代を生きる小説家の中で1番有名な人のように思えるので「読書好きを名乗るからには一応、読んでおくべきかな?」くらいの気持ちで追っている。
今回、改めて初期の作品に触れてみたけれど発見が多くて面白かった。
パン屋再襲撃
- 学生時代、パン屋を襲撃したあの夜以来、彼にかけられた呪いをとくために起こした行動を描いた表題作他『象の消滅』や『ねじまき鳥』の原型となった『ねじまき鳥と火曜日の女たち』など、初期の傑作6篇を収録。
- 村上春樹、独特の文体をサラッとおさらいするのに持ってこいの1冊。
感想
『パン屋再襲撃』を「面白いか面白くないか?」と聞かれたら「それほど面白くもなかったです」としか言えないけれど「村上春樹って文章の上手い人だな」と改めて感じた。なんと言うのかな、教科書に載ってそう的な意味で。
そして巷にまん延する「村上春樹っぽい言い回し」の全てが『パン屋再襲撃』に収録されていると言っても良いと思う。
もうサブリミナル効果くらいの勢いで「やれやれ」と主人公がため息を付くのが最高だった。とにかく「やれやれ」だし、とにかく「パスタ」だし、とにかくマスターベーションなのだ。
人らか「村上春樹のイメージってどんな感じ?」って聞かれたら「コーヒー飲んでパスタ食べてセックス!」と答えている。
だけど初期の村上春樹はセックスよりもマスターベーションが前に出ていたなぁ…って事を再確認した。村上春樹は自慰のことをオナニーでも自慰でもなくマスターベーションって書く。よく分からないけれど村上春樹はマスターベーションって言葉が好きなのだろうなぁ。
表題作の『パン屋再襲撃』は、大して面白くもなかったけれど妙にリアリティを感じてしまった。新婚夫婦のぎこちない生活とか、マクドナルドの描写とかそういうところ。さり気ないところで読者にリアリティを感じさせるのが上手い作家なのだと思う。
逆に『ファミリー・アフェア』は「小説らしい小説を書くための偽物の兄妹像」って感じがしてイマイチ好きになれなかった。なんか上手く言えないけど兄妹っぽくない気がして。親相姦的な感情もないのに、あんなに恋人同士っぽい関係ってあり得るんだろうか?
『パン屋再襲撃』は村上春樹独特の言い回しを学習したり、彼の世界観を手っ取り早く理解するには優れた1冊だと思われる。もちろん、これは私の個人的な見解に過ぎないけれど。
村上春樹にかぶれてみたい人にオススメしたい。