『こう見えて元タカラジェンヌです』は宝塚歌劇団花組の男役でおじさん役を得意…と言うか専門的におじさん役を演じていた元宝塚女優。現在は「たその会社」の社長として舞台、朗読劇、イベントなどの企画・脚本・演出などの分野で活躍されている。
この本、とにかく表紙にインパクトがあり過ぎる。宝塚の役者…と言うよりも「吉本新喜劇の芸人さん?」と見間違えるようなコスチュームと表情。難しいエッセイでないことは表紙を見れば一目で分かる。実際、面白かった。
『こう見えて元タカラジェンヌです』を読んだ時は仕事でなんか色々とモヤモヤしていてキツい時期だったのだけど、読んでとても元気が出た。
こう見えて元タカラジェンヌです
- 作者天真みちる…通称「たそ」は宝塚歌劇団で角刈りの車引き・モヒカンのチンピラ・麻薬密売人などクセの強いおじさん役を演じるタカラジェンヌだった。
- たそはタカラジェンヌの中でもエリートコースに乗る存在ではなく、宝塚音楽学校の試験は1年目で一次敗退。しかし翌年で見事合格を掴む。
- 憧れの先輩スターに囲まれた宝塚歌劇での日々…音楽学校入学から宝塚歌劇団卒業まで15年の月日をコミカルに描く。
感想
『こう見えて元タカラジェンヌです』は元気の無い時に読むには持って来いのエッセイだけど、流石に宝塚歌劇に1ミリも興味の無い人にはオススメできない。ちなみに入院中の夫(少女漫画『かげきしょうじょ!!』を読み、宝塚の舞台は1度観劇済)に持っていったら「めちゃくちゃ面白いな!元気出た!」とたいそう気に入っていた。
全般的にお笑い要素が強いのだけど、その前提には「宝塚音楽学校の試験って15倍以上の倍率があって入学できるだけで凄いこと」ってところがある。小さい頃から憧れて、レッスンを積み重ねたからと言って入学出来る訳じゃない。とりあえず「宝塚音楽学校に入学できた」って時点で凄い人だ…ってところは抑えておきたい。
宝塚歌劇と言うと男役スターと美しい娘役のイメージが強いけれど、芝居をするのだから、よくよく考えてみると老け役もあればお笑い枠もある。
だけど宝塚歌劇のおじさん役とかお笑い系の役って、専科(宝塚の特定の組に所属しない年齢層高めのベテラン集団)の人達の役どころだと思っていたので、特定の組に属しながらおじさん役をメインに演じた人がいるなんて知らなかった。
作者は「どうして私が宝塚音楽学校の試験に合格したんだろう?」と不思議に思いながら宝塚音楽学校の門をくぐっているけれど『こう見えて元タカラジェンヌです』を読んだらその理由が分かると思う。
こんなに面白くてバイタリティに溢れた人はそうそういない!
作者の描く宝塚音楽学校と宝塚歌劇の思い出は何から何まで楽しいのだけど、その視点は「中の人」とか「関係者」の目線でありながら「いちファン」でもあるところが面白いと思った。彼女自身、宝塚歌劇が大好きでトップスターに憧れる「いちファン」としの気持ちをずっと持ち続けているところが、なんか良かった。
『こう見えて元タカラジェンヌです』は巷で出版されている『宝塚歌劇の裏話』とか『宝塚歌劇団の分析本』の10倍はオススメできる。ちなみに私は『こう見えて元タカラジェンヌです』があまりにも面白くて気に入ったので退団後の生活を描いた続編まで購入している。(続編の感想はまた後日)
読んでいる最中に「こんなに魅力的な人が登場している舞台、1度で良いから観てみたかったなぁ」なんて思ったのだけど、読み進めるうちに作者の出ている舞台を観ていたことが判明。私は作者が『ポーの一族』のハロルドを演じた舞台を観劇していたのだけど、ハロルドがどんな感じだったか1ミリも覚えておらず「なんかゴメンナサイ…」って気持ちになってしまったと同時に「脇役に徹しながらも極めていった作者って本当に凄い人だな」とも思った。
『こう見えて元タカラジェンヌです』は宝塚歌劇の副読本としても面白いし、元気が出ない時に読む本としても優秀なので興味のある方は是非手にとって戴きたい。