風邪引きで寝込んでいる時の道連れに選んだ1冊だったのだけれど風邪の友としては「難しくもなく」「つまらなくもなく」ちょうど良い相棒だった。
ここでいう「オルガン」とは学校の音楽室にある「オルガン」のことではなくて、教会やコンサート・ホールでしかお目に掛かれない「パイプオルガン」の事である。
もしかするとパイプオルガンが登場する小説を読んだのは初めてかも知れない。
オルガニスト
ドイツの音楽大学で教鞭をとるぼくに、一枚のディスクが持ち込まれた。ブエノスアイレスで活動するというそのオルガニストの演奏は、超絶的な技巧に溢れ、天才の出現を予感させたのだが…。
最上の音楽を奏でつづけるために神に叛いた青年、そして哀切な終焉。
バッハのオルガン曲の旋律とともに、音楽に魅入られし者の悦びと悲しみを描出する第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。
アマゾンより引用
感想
例え話なのだけど……題名の「オルガニスト」とは、主人公の親友でありオルガニストになるべくして生まれてきた天才だった。
主人公の親友は『ガラスの仮面』で言うこところの北島マヤであり『ヒカルの碁』で言うところの進藤ヒカルであり凡人が努力しても行き着くことのできない世界に住んでいる人間である。
数年前、私はクラッシック音楽に夢中だった時期があってオルガンは3度ばかりコンサート・ホールで生演奏を聞いたことがある。
マリー・クレール・アランという女性オルガニストの演奏(春の陽だまりを感じさせる優しい演奏だった)を1度とトン・コープマンという男性オルガニストの演奏(真面目という言葉を音楽にしたかのような襟の正しい演奏だった)を2度ばかり。
この頃は滅多に聞かなくなってしまったけれどCDも何枚か買い揃えてしまうほどオパイプオルガンルガンに「ハマっていた」時期があったので、なんとなくスムーズに読みすすめる事ができた。
『オルガニスト』は分類的にはファンタジー小説という事になっているけれど、ちょっと別の角度から見ると「ホラー」とか「サスペンス」に近い小説。
「謎解き」の部分が多くあってストーリーを語ることが出来ないのが残念なのだけれど、ちょっと「印象」だけでも書いてみようかと思う。
パイプオルガンが奏でる音楽は宗教をベースにしたものなので「なんとなく厳粛な感じ」だったり「神聖な感じ」だったりするのだけれども不思議と「血なまぐさい場面」が似合ってしまうのも事実なのである。
ゴシック・ホラー映画のBGMなどで、こっそり活躍していたりするし。
「善・悪」「生・死」「明・暗」「聖・邪」といったまったく対極に位置する物(感情)は、それぞれを突き詰めていくと行き着く先は「突き当たり」でも「果て」でもなくて正反対のところへ通じているような気がする。
メビウスの輪が無限であるように、ぐるぐると繋がって回っているような……
『オルガニスト』の軸になる「天才・オルガニスト」の青年はみずから「音楽になりたい」と口にするほどオルガンのことしか考えられない人間。
生きること=オルガンを演奏すること……であり彼のオルガンへの想いは突き詰める果てを知らぬほどだったりするのである。
彼の「想い」が物語を悲劇へと発展させてしまうのだ。
彼は人間として超えてはいけない一線を越えてしまう。無限ループをたどり「まったく正反対のところ」へ突き進んだ彼は人間ではなくて、完璧なオルガニストとして生きることになる……
「破滅的なもの」というのは実生活では関わりたくないというのが本音なのだけれど芸術的な物や、非・現実的な物となると、破滅的なもの」に惹かれてしまう。
自分自身が凡人だから、天才という存在に惹かれてしまうのかも知れない。
壮烈で、哀しくて……それなのに何故か心惹かれた1冊だった。