歌川たいじの作品を読むのはこれが3冊目。
歌川たいじはどちらかと言うとサブカル系なノリの作品を書く人なのだけど、今回の作品はサブカル臭はまったくなくて、朝の連続テレビ小説の題材になっても不思議じゃないような内容になっている。
作風がガラッと変わっていてビックリしてしまったけれど、歌川たいじの挑戦を高く評価したい。
バケモンの涙
- 「ポン菓子」を作る機械「穀類膨張機」を開発した実在の女性(吉村利子)をテーマにした伝記小説。
- 物語の舞台は第二次世界大戦末期。
- 大阪の旧家で「いとはん」として何不自由なく育ったトシ子は国民学校の教師になる。
- 食料も燃料もなく、生のままの雑穀を食べるしかない教え子たちは、消化不良で全員が下痢の毎日。栄養不足から感染症などで命を落とす子もいた。
- トシ子は「子どもの命を助けたい。腹いっぱい食べさせたい」と強く願う中で、少ない燃料で大量の穀物が食べられるポン菓子の存在を知る。
- ポン菓子製造機を作ろうと使命感に燃えるトシ子は女ひとり九州に乗り込み、ポン菓子製造機工場を立ち上げるために奮闘する。
感想
実に「いい話」だと思う。連続テレビ小説にしても良いような内容だし、実在の女性をテーマにしているとのことなので、多少、都合の良い流れになっていたとしても「本当にあったことだから仕方がないのでは?」って話だ。
終戦直後がテーマで頑張る女性が主人公なので、正直ちょっと…かなり言い難いのだけど、私には面白いとは思えなかった。
トシ子を好きになれなかったのが決定的だった。
主人公のトシ子は「子ども達をお腹いっぱいにしたい」と言う願いから、ポン菓子を作る機械を制作したいと思うのだけど、周囲の人間からは「戦争中にお菓子作る機械とか馬鹿じゃないの?」みたいな扱いを受ける。
……ゴメン。私も同じこと思ってしまった。
少しの燃料で米を加工することが出来る穀類膨張機は素晴らしい機械だと思うものの、目のつけどころが、なんだか変な気がするのだ。主人公はお嬢様育ちで、それゆえに「お嬢様育ちの人間には分からない」「これだからお嬢様は…」みたいな扱いを受ける。
……ゴメン。私もきっと同じような扱いをすると思う。
なんだろうなぁ…主人公のトシ子がなし得たことは素晴らしいとは思うのだけど、開発費も何もかも実家の親におんぶに抱っこ。九州に単身で乗り込んだ…と言っても、お膳立てしてくれたのは祖母だったりして、トシ子自身でなし得たことが少な過ぎた。
「周囲の人にお仕上げてもらえる人徳があった」と言うことだとは思うのだけど、トシ子の魅力がイマイチ伝わってこなかったのだ。
トントン拍子に話が進んでいく流れも現代ならアリだと思うのだけど、戦争中となると「それってどうなんだろう?」みたいな気持ちになる部分が多くて、トシ子を応援する気になれなかったのだ。
ただ結果だけ言うと、トシ子が穀類膨張機を完成させた直後に日本は終戦を迎え、穀類膨張機は大ヒット商品になる。
穀類膨張機は日本の子ども達に「ポン菓子」を提供しただけでなく、復員兵はポン菓子を売る仕事に就くことが出来た。「みんなが幸せになれる素晴らしい機械を開発した」と言う意味では、トシ子の功績は大きい。
題材自体は悪くないと思うのに、どうしてこんなにイマイチな作品になってしまったんだろうか? たぶん軸がブレ過ぎていたのだと思う。
- 機械が好きで開発が好きなトシ子の特性
- 教師になって湧き上がった子ども達への想い
- 淡い恋物語
- 無鉄砲なお嬢様のパイオニア物語
……色々な要素を突っ込んできたけど、どれもこれも均等に書いてしまったために心にグッとくるポイントがなくなってしまっているのだ。
……残念過ぎる。やりたかったことはなんとなく伝わってくるけれど、小説として面白くない。
あらすじを聞いて期待して読んでみたものの、どうにも残念な作品だった。