『天の夜曲』は宮本輝がライフワークとして書き続けている『流転の海』シリーズの第四部。
主人公、松坂熊吾は作者の父親がモデルとのこと。
このシリーズをはじめて読んだ時は20代だったが、気が付けば私も30代。その時はすでにシリーズが進んでいて、第一部が出たのは20年前のことらしい。つくづく長い。
天の夜曲 流転の海 第四部
- 時代は昭和31年。
- 主人公の熊吾は大阪の中華料理店を食中毒事件の濡れ衣で畳むことになり、事業の再起を期して妻房江、息子伸仁を引き連れ富山へ移り住む。
- しかし熊吾の仕事は上手くいかず、熊吾は妻子を残して再び大阪へ戻る。
- 熊吾は踊り子西条あけみと再会して…
感想
長い長い小説だが、主人公の人生は波乱万丈で、主人公を囲む脇役達も個性派揃いなので、苦痛を感じることなくスルスルと読める。
こう長いシリーズと付き合っていると、小説を読むと言うよりも、むしろ「親戚の叔父ちゃんの昔話」を聞いているような……主人公一家を、ちょっと離れた場所から見守っているような錯覚に陥る。
「先が気になってしょうがない」というタイプの小説ではないのだけれど「たぶん続きも面白いだろう」という安心感があり、続きが出るたびに購入せずにはいられない。
今回の話も、まぁ面白かった。
更年期を迎えた主人公の妻の憂鬱が、嫌らしいほど上手く書けていて感心しきり。私自身は、まだその時期を迎えていないのだが、身近にいる女性を見るだに、思い当たる節が多かった。
作者自身であると思われる息子の成長ぶりも面白かったし、主人公と踊り子との絡みも興味深かった。
おおむね面白かったのだが「ちょっとなぁ」と思うところも。
作者の宮本輝が立派になり過ぎたのか、何かにつけて説教臭いのだ。小説にお説教はいらないと思う。
宴席で人生を語る酔っ払いをウザったいと思うのと同じ種類の印象を受けた。
あとがきで宮本輝が「このシリーズは終わらせたくないような気も…」なんてことを書いていて、思わず「冗談じゃないよ!」と声を出してしまった。
作品を完結させるのは読者への礼儀であり、作家としての仁義ではあるまいか。(死んじゃったりしたら、しょうがないけど)
大作なのも分かるけれど、自分の作品に酔いしれてないで、とっとと続きを書いていただきたい。
そして宮本輝が元気なうちに、ちゃんとした形でもって完結させていただきたいと心から願う。