私はこの巻を密かに「『大地』における『渡る世間は鬼ばかり」と呼んでいる。
父親が残した土地相続の問題が出てきたり、長男の妻と次男の妻が不仲だったりと、物語的に大きな変動が見られないわりに、次々と小さな事件が勃発して読み手を飽きさせない作りとなっている。
大地(2)
ザックリとこんな内容
- 十九世紀から二十世紀にかけて、古い中国が新しい国家へ生れ変ろうとする激動の時代に、大地に生きた王家三代にわたる人々の年代記。
- 王家、2代目。王龍の息子達の物語。
感想
大地と共に生きた王龍とは対照的に、息子達はそれぞれ違う職業に就いた。1人はインテリ系地主。1人は抜け目の無い商人に。1人は軍人に。
この巻で注目したいのは、王龍の妾だった梨花という元奴隷の少女だろう。
梨花は妾というよりは、むしろ王龍の寂しさを慰める孫娘のような存在。梨花は王龍の妻の阿蘭と同じく元は奴隷なのだが、阿蘭とは全くタイプが違っていて、天使のような可憐なるヒロイン。
梨花は、彼女自身の子供はいないのだが、「女」の部分よりも「母」の部分が強く、どこか聖母マリアを思わせる。
王龍と阿蘭の間に生まれた白痴(差別用語だが原作に書かれているままに記載)の娘の面倒を見ながら、祈りと清貧の人生を送る。一応、仏教徒という設定だが、なんとなくキリスト教のシスターを連想してしまうのは私だけだろうか。
魅力的な人物ではあるけれど、いささか違和感を覚えた。
2冊目の読みどころは、王龍の息子達のボンクラっぷり。
人間は恵まれた環境にいると向上心が薄くなるのだということを、まざまざと見せつけられる。
父親があれほど固執した土地を、あっさりと売り飛ばしてしまうくだりは「昔の中国の物語」ではなく、身近にありがちな出来事として読むことが出来るので、リアリティがあって面白い。
親子間における普遍的なことと言うのは、いつの時代も同じなのだなぁ。
1冊目に較べると、いささかテンポが落ちた感があるが、現代に生きる自分達の生き方と重ね合わせて読むにはもっとも適している巻だと思う。
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