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赤い人 吉村昭 講談社文庫

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明治時代、北海道の開拓の一端を担った囚人たちと看守の物語だった。吉村昭の18番とも言える監獄物で、相変わらず、地味で陰気で面白かった。

渋い……渋すぎる。こういう小説は吉村昭ならではだと思う。

私は吉村昭の作品の感想を書くのに何度となく「渋い」という言葉を使っているけれど、そうとしか言えないのだから仕方がない。

渋好みの人には全力でオススメしたい。

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赤い人

囚人たちの北海道開拓裏面史。明治十四年、赤い獄衣の男たちが石狩川上流へ押送された。無報酬の労働力を利用し北海道の原野を開墾するという国策に沿って、極寒の地で足袋も支給されず重労働を課せられる囚人たち。「苦役ニタヘズ斃死(へいし)」すれば国の支出が軽減されるという提言のもと、囚人と看守の敵意にみちた極限のドラマが展開する。

アマゾンより引用

感想

それにつけても酷い話だった。「人権って、何? それって美味しいもの?」というようなノリ。

いくら囚人だと言っても、あまりな仕打ち。そして、それを監視する看守達も気の毒過ぎる。「刑務所物」というよりも「収容所物」に近いノリなのだ。

淡々と描かれた物語の中で文字通り、虫けらのように人が死んでいくのだ。あまり沢山の人間が、ゴロゴロと死んでいくので、読んでいて感覚が麻痺してしまった。

作者の素晴らしいのは、生きるの死ぬのという過酷な物語に「情」を押し出してこないところだと思う。その筆は淡々として、冷徹でさえある。

だからこそ、ほんの少し垣間見せてくれる「人間らしさ」とか「心の温かさ」のようなものに、心を鷲掴みにされてしまうのだ。

この作品は特定の主人公というものが存在しない。

しいて言うなら「樺戸監獄」が主人公ということになるのだろう。多くの人の血と汗と涙を吸って存続した監獄が、その歴史を閉じる時に物語が終わる訳だが、読み終えた時、なんとも表現し難い疲労感を感じてしまった。

それくらい、地味に重たい作品だったのだ。

吉村昭は人間の生の営みを客観的に書かせたら最高に上手い作家さんだなぁ……と、つくづく思った。

駄目だ…彼の作風にはゾッコン惚れてしまったらしい。

そこまで素晴らしい作品かどうかは微妙なのに「大好きだ」としか書きようがない。

ようするに吉村昭の書くものは、私の感性と、いい感じで沿うんだなぁ……ってことを再確認した1冊だった。

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