私はこの小説を読むまで「胃カメラ」を開発したのが日本人だと知らなかった。
男のロマンと言うか、なんと言うか……なにげにNHKの『プロジェクトX』を彷彿とさせる技術者の物語だった。
地味な作りだが「物作りの楽しさ」を知っている人なら多少なりとも面白く読めると思う。
あ~でもない、こ~でもないと試行錯誤と失敗を繰り返して世に新しい「物」を送り出すのは派手ではないがエキサイティングだ。
光る壁画
- 戦後まもない日本で、胃カメラを世界に先駆けて発明した男達の物語。
- わずか14ミリの咽喉を通過させる管、その中に入れるカメラとフィルム、ランプはどうするのか?
- 技術開発に賭けた男たちのロマンと情熱を追求した長編小説。
感想
「何かを作り出す」というのは、とても人間臭い作業だと思う。小さな積み重ねでもって、現在の人間社会が成り立っているのだと思うと感慨深い。
この小説の主人公はカメラ会社に勤める技術者である。
善良で、勤勉で、良いことも悪いこともしないような男性で何よりも仕事が大好き。昔風に言うなら「亭主元気で留守が良い」典型的な日本のお父さん。
小説の中では「新婚さん」であり、物語が進んでいく中で父になっていくのだが、この主人公の夫っぷり、父親っぷりは、なかなか無責任で良かった。
熟年離婚されてしまう夫の見本のような我が道を行ってしまうタイプで一応「家族のためにも仕事を」とか言いながら「仕事が大好き」だったりするのだ。
主人公の場合は、妻が出来た人だったので、波風はあっても仕事に没頭できたのだが同じテーマでも描き手が変われば「家族崩壊ネタ」にもなりそうな素材だった。
私の好みからすると「ひたむきな開発話」はかなり好きなのだけど今の世相を考えながら読むと「男のメルヘン」の世界でないかと思ったりする。
書かれたのが昭和なので無理もない話と言えばそうなのだが。「なにかにかける情熱」に男も女もありゃしないと思うのだが主人公が女だったら、こうはいかないだろうと思うのも事実である。
それにしても「新しい物を作りたい」というのは人間の本能なのかも知れない。
ニラかを開発したからといって、たいていの開発者は世間に知られることなく、それでも黙々と新しいものを作り続けているのだものなぁ。
なんとなく今の時代を生きる「開発者達」に思いを馳せてしまった。『プロジェクトX』が好きな方にはオススメしたい1冊だった。