久しぶりに「文学」ちっくな作品を読んだ。
読みやすい作品、軽めの作品を読むたびに「読み応えのある作品が読みたいなぁ」と思うのだけど、いざ昔風の文学作品に触れると、ちょっと読み難いと言うか、読んでいて「しんどい」と感じてしまった。
でも、面白かった。短編集なのにサクサク読むことはできないし、ちょっと退屈だったりするところもあったけれど、読んでいる間や読後に様々なことを考えさせられた。
あの夕陽・牧師館 日野啓三短編小説集
ベトナム戦争中、失踪した記者の行方を追う著者初の小説「向う側」、自らの離婚体験を描いた芥川賞受賞作「あの夕陽」等初期作品から、都市の中のイノセンスを浮上させる“都市幻想小説”の系譜、さらには癌体験を契機に、生と死の往還、自然との霊的交感を主題化した近作まで八作品を収録。
日野啓三の文学的歩みの精髄を一冊に凝縮。
アマゾンより引用
感想
短編集なので色々な作品が収録されていたのだけれど、私が1番興味深く読んだのは表題作になっている『あの夕陽』だった。
日野啓三自身の離婚体験を書いた作品とのことだけど、男女の愛の終わりと、人間の身勝手さが吐きそうなくらい濃く書かれていて面白かった。
男性視点で書かれていて、独身時代の私なら「こんなの奥さんが可哀そう!」と憤慨していたと思う。
しかし……既婚者となった今は、むしろ「それって、ちょっと分かるかも」と思ってしまった。
これは夫婦関係に限ったことではないと思うのだけど、人間関係って1度ボタンをかけ違ってしまったら、もうどうにも修復出来なかったりする。(もちろん絶対にとは言わない)
人間関係って築いていくのは大変なのに、壊れる時って一瞬なのだ。
そして1度壊れてしまったら以前の関係に戻るのではなく、それよりも酷い状態にしかならない。『あの夕陽』にはその残酷さが鮮やかに描かれていた。
他の作品については理解できるものもあれば、そうでないものもあったけれど「ここではないどこかに行く」と言うモチーフは共感出来て面白かった。
日野啓三は芥川賞作家とのことだけど、他の作品は読んだことが無いので、また追々と読んでみたいと思う。