詩人、荻原朔太郎の長女である萩原葉子の自伝的小説。
三部作になっていて、私は完結編とも言える『輪廻の暦』から入り、それが非常に良かったので楽しみにして読んだ訳だが、いまひとつ面白いとは思えなかった。
陰気でやりきれないと言うか。こういう言い方をすると失礼極まりないのだが「そんな風に生きてちゃ不幸が押し寄せてくるのも無理はないよね」と言いたくなるようなヒロインなのだ。
もっとも、創作ではなく実話を基にして書かれているので、あまり厳しく突っ込めないのではあるのだが。
蕁麻の家
著名な詩人である洋之介の長女に生まれた嫩は、八歳の時母が男と去り、知能障害の妹と父の実家で、祖母の虐待を受けつつ成長した。
家庭的不幸の“救いようのない陥穽”。親族は身心憔悴の「私」の除籍を死の床の父に迫る。
『父・萩原朔太郎』で文壇的出発をした著者が、青春の日の孤独と挫折の暗部を凄絶な苦闘の果てに毅然と描き切った自伝的長篇小説、三部作の第一作。
アマゾンより引用
感想
母親は出奔し、父親は娘に無関心。ヒロインは父方の祖母の家で虐げられて育つ。「まあ、なんて酷い仕打ち」と思うより先に「なんか感じ悪いよなぁ」と思ってしまった。
虐げる人間も、虐げられる人間も。おおよそ心の琴線に触れなかったと言うべきか。ヒロインには同情するが、それ以上にシンクロすることはできなかった。
この作品は作者萩原葉子が自分のために書いた物なのだと思う。文学というより、日記や回想録に近いような。
日本の文学は私小説メイン……と言われるし、それが悪いとは思わないのだが、この作品に限って言うならレベルは高くないような。
辛口になってしまうのは、私自身と萩原葉子の気性に相容れないものがあるからなのかも知れないが、それにしてもイマイチ過ぎである。
そんなこんなで評価としては低いのだが、河野多惠子の解説は素晴らしかった。
樋口一葉を引き合いにだして「この作品は女家長文学だ」と論じていたのだが、その読み方の深さは素晴らしいと思った。
文学が好きで好きでたまらない人なのだろう。河野多惠子を、こっそり心の師と仰ぎ、一生ついていこうと思った。