『わたしはダニエル・ブレイク』はカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した社会派映画。
しかし、私はそんな知識がない状態でDVDのジャケットを観て『ヴィンセントが教えてくれたこと』のような、老人とシングルマザー一家の心温まるハートフルストーリーだと予想していた。
しかし、実際に観てみるとハートフルストーリーどころか、猛烈にやるせない物語だった。ただ「やるせない」とは思ったものの、良質な作品であることに間違いない。
監督のケン・ローチは労働者階級や移民、貧困などの社会問題に焦点を当てた作品を得意とする映画監督だけあって、なかなかの見応えのあるだった。
わたしはダニエル・ブレイク
わたしは、ダニエル・ブレイク | |
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I, Daniel Blake | |
監督 | ケン・ローチ |
脚本 | ポール・ラヴァーティ |
製作 | レベッカ・オブライエン |
製作総指揮 |
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出演者 |
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音楽 | ジョージ・フェントン |
あらすじ
物語の舞台はイギリス北東部ニューカッスル。
大工として働く59歳のダニエル・ブレイクは、心臓疾患が発覚し医者から仕事を止められる。
国の援助を受けようとするダニエルだったが、複雑な社会制度が立ちふさがり必要な援助を受けることが出来ない。
そんな時、ダニエルはシングルマザーのケイティと出会う。ケイティは2人の子どもを持つシングルマザー。
ダニエルとケイティ一家は貧しい生活の中で寄り添いながら絆を深めていくのだが…
感想
『わたしはダニエル・ブレイク』の舞台はイギリスのニューカッスル。田舎でも都会でもない街…って印象の街。
イギリスと日本は共通点が多い気がする。島国で王室(皇室)があって、伝統的なものを大切にするお国柄。お役所仕事のありかたも日本と似ているのか、役所ではまったく融通がきかない。
主人公のダニエルもケイティ一家も役所の手続きで散々悩まされることになる。
例えばダニエルは大工として真面目に働いていたのだけれど、心臓疾患が発覚して医者から就労を禁止される。しかし、国から援助を受けるためには求職活動をしければならない。
ダニエルは自分が働けないことを分かっていて、採用面接を受け合格。ダニエルは内定を事態するが、会社から「実直な人物だと思ったのに生活保護で生活しようなんて奴だとは思わなかった」と罵られることになる。
ダニエルにしても、ケイティにしても善良な人間で福祉を喰い物にして生きていこうとは思っていないのだけど、イギリスの制度ではダニエルもケイティも困っているのに公的援助が受けられないのだ。
作品の前半部分は多少、笑える要素があるものの、中盤以降は哀しく腹立たしい。そしてラストもハッピーエンドではない。
『わたしはダニエル・ブレイク』はイギリスの映画だけど、日本にも当てはまる部分が多い気がする。
実際、日本も「生活保護申請に対する水際作戦」があったり、小田原市の「生活保護なめんな」事件があったりする。
しかし、その一方で生活保護の不正受給が跡を絶たない。
現役で生活保護のケースワーカーをしている友人は「役所の職員は何かにつけて叩かれるけど、職員は法律と制度の下で働いている。自分自身、生活保護については思うところがあるけれど、役所の職員に色々言われてもどうにもならない」と言っていた。
法律や制度に完璧を求めるのは難しいことだと思うのだけど、人の生死に直結する福祉に関わることについては、本当に困っている人ら手を差し伸べる存在であって欲しいな…と強く願う。
『わたしはダニエル・ブレイク』には心に残るセリフが多いのだけど、特に印象に残ったセリフで感想を締めくくりたい。
「わたしは、ダニエル・ブレイク。人間だ、犬ではない」
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