人間には、どうしても得手、不得手というものがあるらしい。
「脱・ミステリ音痴」を目指してチャレンジしてみたのだが、読み終えるのに、かなり手こずってしまった。
「考える小説」となると、とたんに読むペースが落ちてしまうから不思議だ。日頃、読みつけない言葉の意味を頭の中で変換するだけで時間が掛かってしまうのだろうと思う。
マークスの山
「マークスさ。先生たちの大事なマ、ア、ク、ス! 」。あの日、彼の心に一粒の種が播かれた。それは運命の名を得、枝を茂らせてゆく。
南アルプスで発見された白骨死体。三年後に東京で発生した、アウトローと検事の連続殺人。
《殺せ、殺せ》。都会の片隅で恋人と暮らす青年の裡には、もうひとりの男が潜んでいた。警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補の眼前に立ちふさがる、黒一色の山。
アマゾンより引用
感想
1冊読むのに、普段以上の時間を掛けて取り組んだ訳だけれども、巷の評判に違わぬ面白い作品だと思った。
読みづらい……と言うのか、前半のジワジワ感は、ちょっと辛かったけれど、中盤からはサクサク読むことができた。「楽してオイシイ話を読ませてなるものか」というスタンスなのだろうか?
高村薫の作品は、これで2冊目の挑戦になるのだが、わざわざ簡単に読めないように書いているような印象を受けた。
路線は違うけれど、河野多惠子のノリと似ているかも知れない。もっとも河野多惠子の方が、何倍も読み辛い文章で攻めてくるのだけれど。
物語の面白さや、主役の格好良さもさることながら、脇役がけっこうツボだった。
同僚達が、みなそれぞれにちゃんと光っているところがリアルである。小説ってのは主人公ばかりに光が当たってしまいがちだが、実際の生活では「みな、それなりに良いところもあるし」ってのが普通だと思うので。
ちなみに私のお気に入りはアトピー持ちの「お蘭」である。あの融通のきかなさ加減が、ツボであった。可愛いなぁ。そういう人ってば。
ドキドキ読ませてくれて、ラストはシミジミ……これぞ小説の醍醐味だと思った。
不幸な出来事というのは、やるせなくて哀しくものだが、犯人を愛した女がいたというところに一抹の救いを感じた。
高村薫はどこか男っぽい文章を書く人だと思うが、その一点においては「女性」を感じさせてくれるエピソードだと思う。
ミステリ音痴の私としては、高村薫の作品と次々と取り組むとなると草臥れてしまいそうな気がするので、また気が向いた時にでも、取り掛かっていきたいと思う。
「渾身の力作」と言って過言ではないような、よく出来た作品だと思った。