どの国にも長い歴史の中には「恥部」のようなものが存在すると思う。
この作品は、まさにアイルランドの恥部を暴露したと言っても過言ではないだろう。
未婚で妊娠した女性が出産するために用意された更正施設のことを書いたノンフィクションである。
宗教的な意味合いから、未婚での出産は忌むべきものとされていて、監獄のような施設で出産を余儀なくされる女性達の記録で、あまりの酷さに驚いてしまった。
マグダレンの祈り
1996年までアイルランドに実在し、延べ3万人の少女たちが収容されたマグダレン修道院。
キリストによって改心した娼婦マグダラのマリアにちなんで名付けられたその修道院は、性的に“堕落した”と判断された女性たちを神の名のもとに矯正する施設として、カトリック教会によって運営されていた―。
未婚で妊娠した者、レイプされた者、男に色目を使ったと噂された者、さまざまな理由で修道院に送られる少女たち。
彼女たちは本名を名乗ることを禁じられ、頭髪を剥られる。
外界から閉ざされた劣悪な環境のなかで、少女たちは悲痛な叫びを上げていた。世界を圧倒した衝撃のノンフィクション。
アマゾンより引用
感想
セックスは1人でできるものではないのに、どうして女性だけが責任を負わねばならないのだろう。
100年、あるいは200年前の話ではなく、つい最近まで現存していた施設なのだから、なんとも言いがたい。(もちろん物語の書かれた時代の体制をずっと引きずって運営されていたとは思わないが)
犯罪者でもないのに頭髪を剃られ、厳しい労働を強いられ、正しい医療を受けられないだなんて、あって良いことではない。
身籠った女性は周囲から大切にされてしかるべきものだと思う。この作品を読んで憤りを感じない女性はいないんじゃないかと思う。
ヒロイン(作者自身)は助産婦としてマグダレン修道院で働くのだが、彼女が1人の力で出来ることは微々たるものだという事実が、どうにも居たたまれなかった。
彼女の優しさが当時の入所者の支えになったのは間違いなだろうが、だからって何かが変わった訳ではなかったのだ。
ヒロインもそのことを知りつつ、ただ自分のいるポジションで力を尽しているらしく、その直向な姿は清々しかった。
ただヒロインがマグダレン修道院に来るに至った経緯は「ちょっとなぁ」という気がした。
もちろんヒロイン自身も後悔していたし、何よりも人間は自分の利益のためならどんなに残酷なことでも平気で出来てしまう生き物なので、ここのところを責める訳にはいかないのだが。
ヒロイン=作者の讃えるぺき点は、マグダレン修道院での働きではなく、後世にその記録を書き記したことにあると思う。
こういう過ちは二度と繰り返してはいけないのだ。文章の力を、つくづく感じた1冊だった。