「重松清って、胡散臭くて、そんなに好きじゃないんだよね」と思いつつ、わりと読んでいるような気がする。
むしろ親の敵のように追いかけていると言っても良い。
実際、重松清は胡散臭い話が多いし「はぁ? なんの冗談ですか?」というような作品も多いが、今回の作品はかなり良かった。
かなり短めの短編ばかりを集めた短編集だが、全体的にレベルが高かったように思う。
重松清は「エピソード作り」に関してはかなり上手いと思うので、もしかすると短い作品は向いているのかも……と思ったりして。
送り火
「昔の親は、家族の幸せを思うとき、何故か自分自身は勘定に入ってなかったんだよねえ…」。女手ひとつで娘を育てた母は言う。そんな母の苦労を知りつつ反発する娘が、かつて家族で行った遊園地で若かりし日の両親に出会う。大切なひとを思い、懸命に生きる人びとのありふれた風景。「親子」「夫婦」のせつない日常を描いた傑作短篇集。
アマゾンより引用
感想
今回のツボは表題作の『送り火』だった。
団塊の世代と呼ばれるお父さん、お母さんの頑張りが切なくて胸キュンだった。家族を愛して、家族の幸せを願っているのに、その家族の概念に自分が入っていない……というくだりは、たまらなくツボだった。
お父さんは家族の笑顔を守るために働くけれど、自分は一緒の食卓につけなくて、お母さんは家族が美味しいと言ってくれるのを励みに食事を作るけれど、自分が美味しいかどうか二の次で。
「今の人達みたいに『自分も楽しまなくては』なんて発想が出来なかった」ってのは、なるほどなぁ……と思った。
お互いに大切に思っているのに、気持ちがすれ違う……ってことほど切ないことはない。
泣かせてくれたね。重松清。今回は胡散臭さを感じる余裕も無かった。
思い描く幸せ像に自分の姿を描きこめないって人は、今もけっこう多いんじやないかなぁ。
自分自身が幸せにならなきゃ、なんの意味も無いじゃないの? と思うけれど、そういう人達を否定しようとは思わないのだ。
生きていくのは、ホントに大変。
まあ、色々とあるけれど、言えないようなことや、哀しいことがどんどん積もっていったりもする訳だけど、頑張って生きなきゃね……と思えるような良い作品だった。