私の中にある川端康成は「気骨のある文学者」で、ちょっと取っつきにくいようなイメージがあった。
川端康成は『伊豆の踊り子』のような作品もあるけれど『眠れる美女』のような、ちょっと偏執的な作品が多いせいかも知れない。
私にとって川端康成は親しみやすい作家と言うよりも、むしろ見上げるような作家だった。
天授の子
川端康成は、2歳から14歳までに、両親と姉と祖父母とを亡くし、天涯の孤児の感情を知った。
養女を迎える話に、著者の孤独な少年時代を回顧する「故園」、上洛する古人の旅の心情を描く「東海道」、養女の民子への慈しみと戦後まもないペンクラブの活動を綴る「天授の子」など4編を収録する。
1968年、日本で最初のノーベル文学賞を受賞した著者の、魂の奥の奥にふれる貴重な作品集。
アマゾンより引用
感想
この本を読んで私の中の川端康成像が少し変わった。
未完成作品を含む短編集なのだけど、私小説的なものも含まれていてナイーブな少年時代の話や、養女への慈しみなどを描いた作品など、作者の素顔を垣間見ることが出来たのだ。
私小説は伝記でもなければ、ルポタージュでもないので100パーセント真実とは言えないけれど、それでも真実は含まれていると思う。それだけに作家の人間性が見え隠れする。
この短編集に含まれる私小説『故園』と『天授の子』は作者の照れや恥じらいが滲み出ていて「可愛らしいなぁ」と思ってしまった。
これらの作品を書いた時、川端康成はもう大作家と呼ばれる立場であったのに、こんなに可愛らしいものが書けるのかと感心してしまった。
ここで言う「可愛らしい」というのは、女性がぬいぐるみや赤ん坊を見て「可愛い」というのとは少し違う。
人間的に愛すべき特性を持っているとか、そういう意味でのことだ。立派な大人が、ふとした時に見せる「可愛らしさ」というのは、たまらないものがある。
もちろん、流石は文豪と呼ばれる作家さんだけあって文章の美しさは流石だと思う。
ただ少し教科書めいていて色気は少なめ。折り目正しい小学生が書いた作文のような雰囲気さえある。だが、面白い。
川端康成が好きな人にはぜひとも読んで欲しい1冊。そうでなくても、じっくりと楽しめる良い本だと思う。