小川未明の童話は、本を読まない人でも馴染みが深いのではないかと思う。
たくさん作品が「絵本」になっているしNHK教育番組で「紙芝居」や「人形劇」の題材になっている。
『赤いろそうくと人魚』『牛女』『野ばら』などなど誰が書いたか知らないけど、話は知ってる~って作品が多いのではなかろうか?
小川未明童話集
人間はこの世の中で一番やさしいものだ──ひとり寂しく生きた人魚はそれを聞いて、自分の娘を人間界に産み落とします。夢と希望を託して。美しく成長した娘がたどる運命は、いったいどんなものでしょうか?
数ページのお話のそれぞれがあなたの心の新たなページになる。とっても優しいのにとっても意地悪。
そんな25編の小川未明の童話は日本が世界に誇れるすばらしい作品です。
アマゾンより引用
感想
小川未明は「日本のアンデルセン」と称されることがあるが彼の作品を海外作家のものと比較して、類似しているものを探すとするなら私は、オスカー・ワイルドの童話を、まっさきに思い浮かべる。
『幸福の王子』『ナイチンゲールとばら』『わがままな大男』などオスカー・ワイルドの作品は、子供が読んで感動できるものに違いないのだが、どこか大人に向けて書いているようなとろがあるように思う。
そして、小川未明の童話にも、そんな部分があるような気がするのだ。
有名どころである『赤いろうそくと人魚』などを読んでも思うのだが、子供のない夫婦が人魚の子供を育てて、人魚の子供が恩返し……というところまでは、なるほど子供向けかも知れないが、その後の展開は酷い。
夫婦は心変わりをして、人形を売り、人魚は悲嘆の中で赤い色に塗った蝋燭を残す。あかい蝋燭が嵐を呼んで、村を滅ぼす……というくだりは、あまりにも酷過ぎる。
誰1人として、幸せになれない上に、恨みや哀しみが余韻が残るあたりはオスカー・ワイルドの『ナイチンゲールとばら』におけるナイチンゲールが自分の血で染めた薔薇が捨てられる、やるせないラストとどこか雰囲気が似通っているような気がする。
けっきょく、世の中ってのは、綺麗ごとだけぢゃ、生きてゆけないんだよ……
そう言ってしまえば、それまでの事なのだが、あえて、そのテーマを「童話」というジャンルにぶつけてくるのは驚きである。
小川未明と同時期に活躍した童話作家には「ちょっぴり涙が出ちゃう」タイプの哀しい話を書く人も多いが小川未明ほど、冷たい目線で作品を書いた人はあまりいない。
たいていの作品は哀しくても、ハートフルであたたかい(もちん、そこが魅力なのだ)
あたたかく、明るい作品だけが、児童文学……文学として優れているのではない。
時には冷たい目線で書かれた作品を読んでみるのも、これまた一興。
ただ「童話」の場合は、その冷たさを、やわらかい雰囲気で包隠しているのでそのものズバリが突き刺さってくるようなことはないのだが。
うだうだと書き連ねてみたけれど、ようは私は小川未明の作品が好きなのだ。
「童話」でありながら、どこか冷たさを感じる作品集ではあるが、小川未明の代表作が1挙に読める、お得な1冊だと思った。