村田沙耶香…ここへ来て大変な作品をぶっ放してくれた。村田沙耶香はデビューからずっと攻め気味の作品を夜に送り出してきた人だけど、芥川賞以降は正直「大人しくなったな」と思っていたけれど「大人しくなった」だなんて、とんだ勘違いだった!
『世界99』はやりたい放題なんてもんじゃない。めちゃくちゃ面白くて気持ち悪い。1回読んだ直後にもう1周するくらい面白かった。
今回の感想は極力ネタバレ抜きで書きたいけれど、ぶっ飛んだ設定が多過ぎるので、どこまでを「ネタバレ」と定義するのか難しいため「1ミリもネタバレをされたくない派」の方はご遠慮ください。
世界99(上・下)
ザックリとこんな内容
- 主人公・空子は「呼応」と「トレース」によって、複数の世界観(価値観)に適応しながら、自分自身を “空っぽ” のまま生き延びようとする日常を送っていた
- 空子の生きる世界には ピョコルン という生き物が登場し、最初はペット扱いだが技術進歩により性欲処理や出産、家事などを肩代わりする存在へと変貌し、社会構造に深く関わり始める
感想
『世界99』はディストピア小説なのだけど、世界観を語るのにどうしても最初に説明しておかなければならない言葉が2つある。1つはラロロリン人。もう1つはピョコルン。
ラロロリン人とは?
ラロロリン人とは国籍ではなく「ラロロリンDNAを持つ人」のことで優秀てエリートな人とされる。イメージ的にはギフテッドに近いかも。頭が良くて仕事が出来るので富裕層になりがちだが、差別されていた時代もあった
ピョコルンとは?
ピョコルンとは人間家電や家畜、女性の役割をすべて代行するために作られた人工動物。パンダとアルパカとウサギの遺伝子から生まれた。ピョコルンは人間が担ってきた家事、育児、性欲処理、妊娠出産といった役割を代行することで、人間社会の不快な部分を排除する
主人公の空子は「意思の無い人」として描かれていて、ある意味とても日本人的。「空気読め」って言葉があるけど、めちゃくちゃ空気を読んで周囲に合わせていく生き方をしている。空子の視点で変わりゆく世界を描いた作品が『世界99』
とりあえず。世界観の設定がヤバい。「ラロロリン人」って概念がまず嫌な感じ。「DNA検査で発覚する」とかダウン症等の遺伝子病の出生前検査問題を連想させちゃうよね。
そしてラロロリン人DNAを持った人は激しい差別を受ける…ってところから物語がスタートする。ラロロリン人への差別意識は物語が進むにつれて変容していくのだけど、そこが『世界99』の見どころと言ってもいい。
そしてラロロリン人以上にヤバい設定が「ピョコルン」の存在。女性が担ってきてた家事や育児をやってくれる…だけでなく性欲処理から出産まで請け負ってくれる。ちなみなピョコルンは男性の欲望女性の欲望も受け止めてくれる超絶に都合の良い存在。
『世界99』の前半はラロロリン人差別とピョコルンの登場がメイン。ちなみにピョコルンは初期はただの愛玩物だったが、時代が進むにつれて性欲処理ができるように改造され、少しずつ代行できる幅が広がっていく。
そして後半は世界に大きな「事件」が起こって今までの価値観が一変する。何が起こったか…については、ここではネタバレを避けるけれど私自身ちめゃくちゃビックリした。
思うに。『世界99』は女性の方が好きなんじゃないかな。「好き」と言うよりも「共感できる」というか。
そもそもぶっ飛んだ内容なので「世界観から何から何まで気持ち悪いので無理です」って人も多いだろうと推察する。私はめちゃくちゃ気に入ったけどね。2025年に読んだ本の中で1番インパクトがあった作品と言っても過言ではない。もちろん、年末までに『世界99』を越える小説が出てきたらそれはそれで嬉しいけれど。
現代社会の倫理的に映像化は難しいとは思うのだけどイカレた誰かが映画化なりドラマ化(アニメ化)してくれないかなぁ。めちゃくちゃ面白い作品が出来ると思う。
ネタバレを書かずに色々語るのって難しい。できれば『世界99』を読んだ同志と語りあいたいので、どうか皆さん読んでください。めちゃくちゃ気持ち悪くて面白かったです。