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日付変更線 The Date Line 辻仁成 集英社

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とても読み応えのある壮大な作品だった。

主人公はハワイ在住の日系四世の青年。

彼の祖父は第二次世界大戦時、日系アメリカ人部隊で戦った日系二世。第二次世界大戦を舞台にした、祖父世代の物語と、主人公世代の物語が綿密に繋がっていて大きな物語になっている。

戦後70年を意識して出版しているのだと思うのだけど、それに相応しい力の入った作品だと思う。

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日付変更線 The Date Line

ハワイに住む日系四世の青年ケインは、小説家を目指している。彼の祖父ロバートは日系二世であり、第二次世界大戦の欧州戦線で勇名を馳せた日系アメリカ人部隊(442部隊)の兵士だった。

苛烈な戦争と向き合った日系二世から日系四世まで、日米欧の境界線を超え、1940年代と現代が交錯しながら展開する、壮大な物語。

アマゾンより引用

感想

一応「戦争の悲惨さを描いている」って流れもあるとは思うのだけど、反戦云々と言うような作品ではないと思う。

辻仁成らしい「愛」とか「恋」とか「人生」とか、そういう事がテーマになっていて、なにげにトンデモ設定だった。

特に上巻は戦争描写が多くて涙無しには読めないような苦しい場面があっただけに、最後まで読んでみて「ちょ! そこが終着点だったの?」と驚かされた。

日系二世でありながらアメリカのために戦おうとする兵士に、なけなしの食料をふるまう場面で思わず流してしまった私の涙は何だったのか。

……まぁ、しかしこれが辻仁成のスタイルなのだと思う。ある意味凄い。

祖父世代の話では戦争に巻き込まれるた日系二世達の苦悩を描くと共に恋人に裏切られた男の苦悩が「これでもか!」と言うほどしつこく描写されている。

下世話な話で恐縮だけど、この作品を書いていた時期に辻仁成は離婚されているそうで、もしかしたらご自身の経験や気持ちが投影されているのかな……なんて事を思ってしまった。

幼なじみで仲の良かった3人の青年の中に、ニックと言う絵を描く男がいるのだけれど、彼は友人に恋人を奪われてしまう。だけど、その理由が酷いのだ。

ニックの恋人は多情な人でもなんでななくて、ニックが言葉で愛を伝えてくれないことに不安を感じていて、そこに熱烈なアプローチを受けた事で心変わりをしてしまうのだ。

恋人は何度なくニックに「言葉で好きだと言って欲しい」と懇願するのだけど、ニックは自分の信条により「愛している」とか「好きだ」とか言う言葉を口にしようとしなかった。

ニックは「心変わりなんて信じられない」と言うのだけど、女性からすると「そりゃ仕方ないわ。ニック。相手に対する思いやりが無さ」と思わざるを得ない。

そして3人の幼馴染達は戦争に巻き込まれていくのだけれど、ここでもニックが酷いのだ。

ニックはスピリチュアル系というか、芸術肌と言うか、傷つきやすい魂を持っていると言うか、とにかく精神が不安定になるのだけれど、私はずっと「ニックをぶん殴りたい」と思いながら読んでいた。

「戦争が人にもたらす悲劇」がテーマなのかも知れないけれど、この作品で私が強く感じたのは「心の弱い人間は周囲の人を不幸にする」と言うことだった。

心が綺麗なのは結構だけど、心が綺麗だからって何をしてもOKって訳じゃない。

そして現代パートでは、主人公の日系四世の青年を筆頭に日系二世の子や孫達の物語になっている。

現代パートは恋愛要素が濃くて正直、お腹いっぱい。私にはついていけない世界だった。

こちらは日系二世の物語から繋がる新興宗教の話になっていて、いささか使い古された感もある。オウム以降、日本の文学界は新興宗教ネタが多過ぎるのだ。

……と。ここまで文句ばかり書いているけれど、個人的には良い作品だと思っている。と言うのも、私はこの作品を読みながら感情に振り回されていたのだ。

世の中には沢山本があるけれど「面白かった」「まあまあだった」と、アッサリ流せてしまう作品の方が多い。

それだけに理由はどうあれ、猛烈に何かを感じさせてくれる本は貴重だと思っている。感情を掻き立てる作品と言えばいいのだろうか。

頭で考えて読むのではなくて感情的になって読んでいた。久しぶりに「長編小説を読んだ!」と言う充実感を味わった。

正直「戦後70年だから」とか「戦争体験の悲惨さが云々」と言う意味では、それほど素晴らしい作品とは思えないのだけど、小説を読む醍醐味を味わう事が出来る大作だと思う。

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