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八月の母 早見和真 KADOKW

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今年は速水和真の作品を追いかけていて前回『イノセント・デイズ』で大撃沈したものの、懲りずに続けて『八月の母』を読んでみた。

読後に知ったのだけど『八月の母』は実際に起こった事件(伊予市団地内少女監禁暴行死事件)を元ネタとして描かれている。グイグイと引き込まれるようにして読んだのだけど、胸糞悪い描写が多いし全面的に賛同できる話ではなかった。

今回ネタバレ全開の感想なのでネタバレNGの方はご遠慮ください。

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八月の母

ザックリとこんな内容
  • 伊予市団地内少女監禁暴行死事件を元に書かれた作品
  • 越智美智子は厳格な父の死後、母が男に狂い人生が変わっていく。美智子は荒れ誰の子かさえ分からない女の子(エリカ)を産む。
  • 自堕落な美智子を反面教師に、エリカはこの街を出たいと足掻くのだが気が付けばエリカも父親の違う子を二人産みむ
  • エリカの三人目の娘、陽向は伊予市の市営団地に母と姉、兄と住む暮らしていたのだが……

感想

面白かったし、グイグイ引き込まれたのだけど全面的に「素晴らしい」とは思えない作品だった。

早見和真の作品を続けて読んでみて思うのだけど、物語を作るのは上手なんだけど、ところどころ私とは価値観がズレる部分があって全面的に賛同できないことが多い。だけどこればかりは個人の価値観レベルの話なので作家を責める筋合いではない。

『八月の母』を不幸の連鎖を描いた作品…とするなら、ものすごく良く出来ていると思う。『アンナ・カレーニナ』の冒頭は「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」とあるけれど、不幸な家庭のテンプレみたいなものもあるような気がする。

『八月の母』は美智子、エリカ、陽向と女三世代の物語なのだけど、なんかこぅ…どこかで聞いたことのあるような話と言うか、不幸のテンプレにどっぷりハマり混んでいる。生活保護のケースワーカーをしている友人が「代々生活保護を受けている家系があるけど、あれって抜け出せないのよ」と話してくれたことがあるけど、ホントそれ。ただし『八月の母』は最後に希望を残しているところが小説…って感じではある。

最後までグイグイと引き込まれるようにして読んだのだけど、早見和真の母性信仰には正直「うわぁ」とドン引きした。作中に未成年の少女に手を出す男がいるのだけど「それでも結局、女は優しく受け入れてくれる。それは生まれ持っての母性」みたいな解釈で書いている場面では「そんな訳ねぇだろ?」と真顔でツッコんでしまった。

さらに言うなら過剰な母性の大安売りにもウンザリさせられた。確かに子を宿した瞬間から母性に目覚めて愛情ドバドバな女性もいるにはいるけど、女性が全員そうかと言うとそんなこともない。そうじゃなかった人間(私)が言うのだから間違いない。だけどこのあたりの解釈については男性作家の作品なので理解度が低くても仕方ないのかな…とは思う。

『八月の母』は不幸の連鎖の物語でかなり胸糞悪い話なのだけど、三世代目の陽向は不幸の連鎖から抜け出そうとしている。

陽向がどうしようもない状況から母達と別ルートを歩めたのは手を差し伸べてくれる大人がいたから。これってちょっと重要な事だと思う。「不幸の連鎖を断ち切るには周囲の手助けが必要」であるとするなら、児童虐待等の問題は行政がグイグイ介入することで子どもの未来を救えるのかも知れないな…と思ったりした。

物語の最後で陽向は強く生きていける…みたいな風に描かれているけれど、個人的には「陽向は本当に大丈夫なの?」と疑問に思った。陽向は守ってあげたくなるような天使みたいな描かれ方をしているけれど、彼女の行動って…冷静に考えてみるとかなりズルイし母や祖母と似ている部分があるのだなぁ。他人の犠牲の上に成り立っている人生なのだから幸せになって欲しいとは思うのだけど。

それにしても紘子の報われなさと伊予市の酷い描かれっぷりは気の毒過ぎた。早見和真って田舎に恨みでもあるんだろうか?『アルプス席の母』で描かれた大阪の描写酷かったけれど、伊予市の描写も酷い。伊予市のみなさんは怒ってもいいと思う。

何かとツッコミどころ満載なのだけど、早見和真の作品はものすごく力強くてそれについては毎度感心する。「力こそパワー」みたいなノリ。

早見和真は私にとって100%信頼できる作家さんとは言えないけれど、こんなにグイグイ力強い作品を書く作家さんは貴重だと思うので、これからも追いかけていきたい。

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