青山美智子の作品を読むのは『月の立つ林で』『赤と青とエスキース』に続いて3冊目。
『月の立つ林で』は好みだったけれど『青と赤のエスキース』は好きになれなかった。そして今回い読んだ『リカバリー・カバヒコ』は好みだった。
それにしても青山美智子って作家さんは連作短編小説が好きなんだろうか?『月の立つ林で』『赤と青のエスキース』『リカバリーカバヒコ』3冊とも1つのキーワードにまつわる人々の物語で、このスタイルに何かコダワリがあるんだろうか? それとも、私が読んだ作品が「たまたま」このスタイルなのか?
今回はカバの遊具がキーワードになっている。
リカバリー・カバヒコ
- 5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒルの近くにある日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドをめぐる物語。
- カバのアニマルライドは自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がああり、人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。
- アドヴァンス・ヒルの住人達はそれぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
感想
お寺や神社に行くと「自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復する」ご利益のある御神体があったりするけど『リカバリー・カバヒコ』のカバヒコもまさにそれ。ただし神社やお寺にある御神体と違って「治したい」と言う部分は深刻な病…と言うよりも、むしろ心(精神的な何か)の病って感じだった。
主人公はパートごとに違っている。高校に入学したとたん成績が振るわなくなった男子高校生、ママ友に悩む主夫、突発性難聴で求職中のOLなど。
どの主人公達も読んでいる最中は「なんだコイツ? そんなの自分が悪いのでは?」みたいな人達が揃っていて、読んでいて正直ムカついてしまった。だけど彼らは全員物語の中で「あれ?コレって自分が悪いのでは?」ってことに気づいていく。そこが良かった。
正直、カバヒコの存在はどうでも良い…まである。登場人物を繋ぐキーワードでしかない。一応、最後のエピソードでカバヒコの出自が明らかになるけれど、その話自体はさほど重要でもない。
どのエピソードも「そう言うことってあるよね」と思えるような話ばかりで、私が主人公達にムカついたのは主人公達の気持ちが理解出来るから。人間、ドツボにはまっている時って、そこから這い出すための正解は自分自身で分かっていることが多い。だけど自分に言い訳してみたりして、自らドツボにはまり続けてしまったりする。
じゃあ、どうすれば抜け出すことが出来るのか?
それについての解答めいたことは物語の中には一切書かれていないのだ。結局のところ自分次第…って感じ。ただし抜け出すキッカケはカバヒコではなく「主人公の周囲にいる人間」ってところが共通している。
読後感がものすごく良い…ってタイプの作品ではないけれど、なんかこぅ…地味に良かった。爽快なハッピーエンドではないけれど、それがかえってリアルっぽい。これからも青山美智子の作品を追っていきたいな…と思った。