長嶋ファンの野球少年の成長物語。
私は野球なんて好きじゃないし長嶋茂雄もよく知らない。だけど小説的な意味での野球少年は嫌いじゃないと言うかむしろ好きだ。
昭和ノスタルジーと言うか、中高年のロマン枠と言うか。
憧れの野球選手がいて、自分もいつかプロ野球選手になりたいと願いつつ野球をして、その父親もまた野球が好きで……なんて設定に胸キュンなのだ。
長嶋少年
小学五年生のノブオは、長嶋に心底憧れている、誰もが一目おく野球少年。
詩人の父は行方不明、母は子供にも仕事にも無関心、友との別れや理不尽に負った怪我、出生の秘密…次々と苦難は襲いかかってくるけれど、「長嶋」を心の支えにぜんぶ乗り切るのです!
すべての野球少年に捧げる、著者渾身の成長物語。
アマゾンより引用
感想
主人公のノブオは育児放棄気味の母親と2人暮らし。詩人である父親は物語の途中で亡くなってしまう。
母親は色々と難アリな人で、お金に対して執着が強く、ゆすり・たかりを平気でしてしまうような人間。主人公はその事を恥ずかしく思っているけれど彼が子どもであるがゆえに、どうしようも出来ないでいる。
設定だけ読んでいると不幸で陰気な物語を想像してしまうのだけど、主人公は長嶋を心の支えとして、卑屈になったりもするけれど、伸びやかに成長していく。
酷いエピソードも多くて「そりゃないわ」と突っ込みたくなったり、憤慨してしまう場面もあるのだけれど、「あの時代だから仕方がないのかな」と言う部分で納得させられてしまった。
また、主人公を囲む大人達が生き生きと描かれているので、矛盾点が意外と気にならなかった。
とにかく活力に溢れた作品だと思う。登場人物達の中で「この人、いいわぁ~」とか「この人、好きだな」と思えるような人はいなかったのだけど「ああ、こういう人いるいる!」と思えるような、自分の知り合いに1人はいそうなタイプの人が沢山登場するのだ。
主人公は物語の後半で大きな壁にぶつかる(ここは話の核になるのでネタバレは控えます)のだけど、長嶋茂雄の存在と、野球への情熱、そして友情の力でそれを乗り越えていく。
きっと主人公はこれからも苦労するのだろうけれど、逞しく生きていくだろうと思わせてくれるラストが素晴らしい。
そして本作とは全く関係ないのだけれど作者の書い食べ物エッセイ『我、食に本気なり』を読んだ時、私は作者が家で作った「美味しいおでん」を食べたことが無いのではないかと感じ、家で作った料理の表現は不思議と美味しそうに思えないと言うようなことを書いた事がある。
この作品読んで「もしかしたらねじめ正一の母親は料理が苦手か、あまり料理をしない人だったのかも知れないな」と思った。
もちろん「主人公=作者」でない事は理解しているけれど、この作品に出てくる母親は料理をしない人で、主人公に料理を作ってくれる「料理が上手なおばさん」の料理でさえ、美味しそうには描かれていないのだ。
本筋はと関係ないけれど、ねじめ正一は家庭料理に恵まれずに大人になった人なのかな……と思ったりした。
かつて野球少年だった人、長嶋茂雄が好きだった人は面白く読めると思う。
また、私のように野球に興味がなくても「昭和ノスタルジー」が好きな人なら、面白く読めるのではないかと思う作品だった。