二十三年間、夫を介護した母親と、その息子の手記である。
母親の手記に息子が文章を付け加える形式になっていてる。
母親は文筆家でもなんでもないので、読み物としては良く出来た代物だとは言いがたいのだが、しかし良い本だったと思う。
二十三年介護
「酉の市語れば夫のことばかり」。73歳の母は父の臨終後、そう詠んだ―。
酒と俳句が大好きな父・正也が脳溢血に倒れた。その日から母・みどりの介護が始まる。
老人問題、別居と同居、仕事との両立。現実に直面しながらも、明るく前向きに父を支えようとする母。やがて彼女は病床の父に句を習い始め…。
母子の手記で綴る23年間の記録。介護の実際を爽やかな筆致で描く、家族の物語。
アマゾンより引用
感想
ノンフィクション本……中でも闘病話や介護話というのはは、どうしても「困難を乗り越えてきた」という事実だけでも感動してしまいがちである。
自分と同じ空気を吸って現実に生活している人の体験した出来事というのは、自分の身にも置き換えやすいし、だいたいからして「生きるの、死ぬの」という問題に直面した話というのは、それだけでも点数が加算されてしまうというか。
この作品は、そんな「加算法」を抜きにしても、面白い作品だと思った。
母親の介護禄だけでは、たんなる「感動の介護記」で終わっていただろうが、息子がそれに文章を付け加えたことにより、味わい深いのもに仕上がっていた。
母親の目から見た父親の印象と、自分の目から見た父親の印象が違っていたり、また家族が協力しあって生きているように見えて、じつは、とんでもなく気持ちが擦れ違っていた……などというエピソードが、良いアクセントになっている。
息子は自分の母親を「思い込みが激しく愛情を自家発電する」と評しながらも「自家発電の愛情が悪いとは思わない」と書き、そして「神輿は担ぐのがいちばん楽しくて興奮する。母は父を神輿のように担いでいた」と書いている。
こういう愛情って、いいなぁ……と思う。多少、歪んでいようが、すれ違いがあろうが、とりあえず、そこには愛がある……というような。
読んでいて、ちょっと苦しくなるような部分もあるのだが、愛情が感じられる文章なだけに「そういうのもアリだよね」と思ってしまった。
それにしても二十三年という月日は長過ぎる。
介護する側も、介護される側も。「どうして、こんなことが起きるのだろう?」などと子供のようなことを思ってしまった。
ひとたび「こと」が起これば原因がどうあれ、経緯がどうあれ、とりあえず「対処する」ってことが大切だって事は分かっている。
自分が直面したら、考えるより、まず行動していると思うのだが、読書という形でもって接してみると、余計なことばかりを考えてしまうらしい。
いっき読みしてしまったのだが、時間をあけて、また読んでみようかと思う。