小林多喜二の『蟹工船』の名前は日本人の大人なら誰でも知っていると思う。プロレタリア文学の代表格とも言える作品で、国語の時間に習っているはず。
……とは言うものの、読書が好きな人でさえ実際に『蟹工船』を読んだ人は少ない気がする。私も今まで読んだことがなくて、アマゾンオーディブルのラインナップにあったので「Audibleにあるなら聞いてみてもいいかな」みたいな気持ちになって聞いてみた。
ちなみに蟹工船とは、戦前にオホーツク海のカムチャツカ半島沖海域で行われた北洋漁業で使用さていたカニの加工設備を備えた大型船のこと。
小型の船がタラバガニを獲って母船に戻り、母船でタラバガニを蟹の缶詰に加工する。その労働は過酷で、船の中は工場とはみなされなかったため労働法規も適用されなかったらしい。
蟹工船
青空文庫でも公開されているので「ちょっと見たい」くらいなら青空文庫で。
- 蟹工船では貧困層に属する男たちが働いていた。
- 情け知らずの監督である浅川は労働者たちを人間扱いせず、彼らは劣悪で過酷な労働環境の中、暴力・虐待・過労や病気で次々と倒れてゆく。
- ある時転覆した蟹工船をロシア人が救出したことがきっかけで、労働者達は異国の人も同じ人間と感じるようになり労働者が立ち上がっている事を知る。
- 労働者たちはやがて権利意識に覚醒。指導者のもとストライキ闘争に踏み切る。
- 最初のストライキは失敗してしまうが、労働者たちは作戦を練り直して再度のストライキに踏み切る。
感想
Audibleで耳から聞く場合、ちょっと難しい本だったり「読むのはシンドイな…」って感じるような本でも案外スラスラ聞けてしまうのだけど『蟹工船』は初めて「耳が滑る」と言う体験をした。
こ…これは…猛烈に面白くない!
「なるほど…プロレタリア文学が流行らなかった理由が納得出来る」と妙に感心してしまった。一応、小説と言う形式になっているものの、中学校の国語的に言うなら「説明文」みたいな感じ。一般書籍だとルポルタージュに近い。つらつらと事実が羅列されていて、とてもじゃないけど「ちゃんしとした小説」とは思えなかった。
ただ「酷い扱いを受けていた労働者の実態を知る資料」としては優れていると思う。『蟹工船』はあくまでも創作物だけど、その中で書かれている事件…例えば、函館を出航してカムチャツカヘ向かう博光丸が沈没する秩父丸の救助信号をうけたのに、監督の命令で見殺しにする場面などは実際にあった事件が元になっているとのこと。
プロレタリア文学(プロレタリアぶんがく)とは、1920年代から1930年代前半にかけて流行した文学で、虐げられた労働者の直面する厳しい現実を描いたものである。
ウィキペディアより
ウィキペディアにもあるようにプロレタリア文学は「虐げられた労働者の直面する厳しい現実を描いたもの」という定義になっているので、たとえ小説として面白くなくても労働者の厳しい現実を描いている時点で『蟹工船』は名作なのだと思う。
……ただ、小説好きとしては「こんな美味しいネタを使うんだったら、もっと書きようがあったのでは?」と思ってしまうのも事実だ。
時系列に添ってダラダラと話が進んでいく。そして、いくら「群像劇」だと言っても1人1人の登場人物は全員モブキャラ…って感じで主人公不在。誰にも心を寄せることが出来なかった。
ちょっと昔の小説って文章が古くて読み難い傾向が強いけれど、それでも美文とされる川端康成や谷崎潤一郎などの作品は文章が古くてもうっとりするほど美しくて、朗読で耳から聞くと最高だったりする。「Audibleで聞いても無理」って作品は『蟹工船』が初めてだったので、ある意味衝撃的ではあった。
…とは言うものの『蟹工船』が日本文学の中で重要な作品であることは間違いないので、触れることが出来たことについては良い経験だったと思う。