寺地はるなの作品を読むのはこれで2冊目。前回の『声の在りか』は正直イマイチだったけど、今回は『水を縫う』は『声の在りか』の時より上手になっている気がする。
「惜しい!」と感じる部分があって絶賛することは出来ないけれど、この伸び幅は凄い。
水を縫う
- 主人公の松岡清澄、高校1年生。1歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らしをしている。
- 清澄は小さい頃から手芸が好きだが、姉の水青は子どもの頃のトラウマ体験から可愛いものや華やかに物が大嫌いだった。
- 水青は結婚することになるのだが「可愛いウェディングドレスは嫌だ」と言う姉のために清澄はウェディングドレスを自作すると宣言する。
感想
寺地はるなの作品を読むのはこれで2冊目。前回『声の在りか』読んだ時も「…なかなかに上手い作家さんだと思う」と書いているけれど『声の在りか』より断然上手になっているし、前回よりも時代を取り込みつつ上手いこと物語を構築していると思った。
『水を縫う』の主人公は「手芸が好きな男子高校生」と言う特殊設定。最近は「多様性を尊重する」ってことが良しとされていて、そういう時流に乗っかっている。さらに言うなら「女性の社会進出と家族のあり方」とか「ジェンダー論」なんかも組み込んでいて「最近の流行りを盛り込んだ欲張り贅沢セット」と言っても過言ではない。
小説の場合、あまりテーマを盛り過ぎると内容が薄くなってしまいがちだけど『水を縫う』の場合は「欲張り贅沢セット」を上手に調理していた。説教臭くもないし、あまり尖り過ぎてもいないところは高く評価したい。
私自身、女性なので主人公の祖母や母、姉の抱いていた気持ちは痛いほど理解できた。「そうそう。そうなのよ!」と心の中で何度相槌を打ったことか。そして清澄の趣味である手芸についても色々と思うところがあった。
マイナーな趣味…特に自分と異なる性の人が好む趣味を嗜む場合、色々と面倒くさいことが起こりがちだけど、趣味とか好きなものに性別なんて関係ない。「好きなものは好きでいいじゃない?」って話だ。「そもそも他人の趣味なんて、どうでも良いのでは?」って思う。
グイグイ読める面白さだったし物語的にまったく不満はなかったものの、大絶賛できないポイントが1つだけあった。
『水を縫う』は一人称で書かれていて章ごとに語り部が変わるのだけど、これは失敗だったと思う。清澄の語りや表現が少し女性っぽいのが気になったことについては「手芸男子だから仕方ないかな」と思ったものの、一人称を語っている人間が老女であったも中年男性であっても、感覚が若い女性の物だった事に気になってしまった。
考え方にしても言い回しにしても世代や性別によって変わってくるはずなのに、一人称がどれもこれも似たよなう文章なはの完全に失敗だった。思うに…全員が作者(寺地はるな)なのだと思う。それだと老女や中年男性を表現するとなると違和感があり過ぎるのだ。
母親の考え方や葛藤は現代を生きる女性そのものだったし、何なら祖母も父親の友人も現代を生きる女性の代弁者になっていて違和感があった。
文句なしに面白かったし最後も綺麗にまとまっていて、寺地はるなの想像力と構成力を感じさせる作品ではあっただけに、章立てで一人称を持ってきたところが残念でたまらない。悪いけど現代日本にあんな話し方や表現方法を使う婆さんとか中年のオッサンはいない。もし、いるとしたら…それはラノベかファンタジー世界限定での話だ。
作品の骨子が良かっただけに「ああ…そこさえ、ちゃんとしていたら」と残念な気持ちにっなてしまったものの、寺地はるなの次回作は是非読んでみたいと思う。