「受け流す」というのは、 生きてゆくための高度な技術なのだなぁ……と思った。静かでとても上品な作品。
『向島』からはじまる三部作のヒロインは哀しみを受け流すことに長けている。「受け流す」というよりも、むしろ「生き流す」という印象があるのだけれど。
墨堤
花街向島、水の女!
現代の芸者芳恵は26歳、パトリ〔鐘の音の響く範囲の地〕向島の愛と哀しみを清澄な文体で描く秀作。
アマゾンより引用
感想
この小説のメインの話は、ヒロインと30歳も年のなれた旦那の間に出来た娘が突然死してしまうことである。
突然襲われる哀しみの中でも、男と女の感覚の違いが鮮やかに描き出されていて面白かった。
私は子供を持ったことはないし、母になる予定もないのだけれど、なんか、こぅ……本能的に分かるような気がした。
男性の感覚と、女性の感覚って決定的にどこか違うようだ。
ヒロインはどうしようもない哀しみに身を浸すことになる訳だが、そこから回復していく過程がとても良かった。
そこに「癒し」なんてものは存在しなかった。自分との対話と、時間があるだけ。
「回復したい」といういう気持ちがあれば、どんなものでも癒しのアイテムになっていくのだろう。
ヒロインの場合は、鈴と老妓の死。他人の葬儀で、今まで「泣けなかったこと」がドッと押し寄せて号泣してしまうヒロインを見て「あるある」と頷いてしまった。私も経験者なので。
私はちょうど三部作を後からさかのぼって読んでいるのだけれど、前回読んだ『言問』よりも好きだった。
美しい日本語と静かで哀しい作品の雰囲気がよくマッチしていると思う。
『向島』を読むのが楽しみでならない。領家高子の世界は良い意味でちょっと特異だ。
キリリとしているのに、どこかしら上品な感じがした。大人の読み物だなぁ……と思う。