実のところ、それほど期待せずに読んだのだが、良い意味で裏切られてしまった。
「しょせん少女小説でしょ?」なんて構えていたのだが、とんでもなく面白かったのだ。膨大な数の短編集なのだが、それぞれのネタが被ることなく、個性的に面白いだなんて!
ストーリーテラーとしての吉屋信子の力量を、まざまざと思い知らされた。
花物語
- 少女を花に托した54の短編からなる連作集。
- 美しい友との想い出、両親を亡くした姉。ミッションスクールの少女…
- 友情とも同性愛とも言い難い「エス」の世界を描く。
感想
その当時は「エス」と表現されたレズビアンちっくな小説集で、ほのかな恋愛を寄せる対象が「同性」である。
同性愛云々は横に置いても物語として面白いと思った。恋愛小説の雛形を一挙に集めたと言っても良いかも知れない。
少女を対象にして書かれただけに、大人の恋愛は登場しないまでも、初恋ちっくな恋物語から、エキセントリックな心中物(厳密に言えば心中ではないが、私にはそうとしか思えなかった)まで、幅広く網羅されていて、しかも背景が「お金持ち」だったり「超不幸」だったりするのだ。
ハマらずにいるのは無理というものだろう。
ドラマ性の素晴らしさもさることながら、吉屋信子の観察眼にも敬意を表したいと思う。
小説でヒロインとなった少女達は、決して典型的な美少女ばかりではないのだ。虫愛づる姫君のような変わり種から、勤労少女まで、様々な「少女」が取り上げられていて、それぞれが魅力的に描かれている。
見目麗しい「いかにも」な乙女達ばかりでなく、路傍の花のような少女をヒロインに持ってる心意気は素晴らしいと思った。
絶賛したいとろこだが、時代背景もあったとは思うのだが、現代人的な視点で見ると「これはちょっと……」と思う部分も多かった。
ただ、この点に関しては作者のマイノリティ云々の話を無視しては語り難いところがあるように思うので、ここではあえて語らないでおこうと思う。また、別の機会に、とっぷりと語りたくはあるけれど。
理屈っぽいことを書いてしまったけれど、じつは、かなり素で面白かった。
いい年して、こんな乙女ちっくな物語にハマってしまうとは。自分にとって、本当に好きなものは何であるのか…ってことを再認識させられた次第。
大事に読みたいなぁ……と思わせてくれる作品だった。吉屋信子の他の作品の感想も読んでみる