お江戸が舞台の「ちょっといい話」を集めた短編集。たまには、こういう時代物を読んでみるのも良いものだなぁ……と思った。
時代小説は滅多に読まないし、得意ではないけれど短編集なりアリかも知れない。
昔日より
想い人を追って伊勢へ行きたい、という町娘の恋を手助けする、家康の元寵妾と配下の老忍を描いた「黄鷹」。
裏切られた思いの息子に、一世一代の晴れ姿を見せる父親が眩しい「新天地」。
たった一度、過ちを犯した武家の妻女の心の内が狂おしい「女犯」。
江戸を舞台に、読後感が清冽なオブジェを象る傑作短編集。
アマゾンより引用
感想
地味で控えめな日本人の心がギッシリと詰め込まれていた。
最近、何かというと「日本人は自己主張がなさ過ぎる」とか「感情表現が下手」なんてことが叫ばれるけれど、それもまた良いではないか。朴訥さに隠れた熱い想いも、なかなかオツなものである。
自分の信義のためだったり、親子愛だったりに操立てする人達が出てくるのだけど、みな不憫なほどに不器用で素敵だ。
なかなか良い作品集だと思う。時代小説が苦手な私でもサクサク読めた。
ただ、ちょっと残念なのはインパクトが無さ過ぎるということ。意地悪な書き方をすると「毒にもクスリにもならない小説」なのだ。
たぶん、3日もしないうちに忘れちゃうと思う。「ちょっといい話」ってのは、よほどキラリとするものがなければ、サラリと流れていってしまうものなのだ。
梅雨の日の、まったりした午後に畳の上で寝転がって読むには丁度良いかも……てな感じの作品だった。